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「五右衛門は?五右衛門」
「おまえそれ犬…しかもふざけてたやつ、テレビで。つけたいって言うてたやつやろ」
「くくく、ばれた!だめか」
!
慎吾くんの、完全却下の候補が何気なく投下された瞬間、
わたしのお腹の中でポンッと弾けた感覚。
まるでお腹の内側から外側に向かって軟式ボールが優しく投げられたような、そんな感覚。
そんなに強いものではなくても、何度もしっかりと伝わってくる。
「…慎吾くん、あはは…慎吾くん、蹴ってる」
「まぁじか!こいつ五右衛門か!」
遥輝くんが声をあげて笑った。
わたしもくつくつと笑いが止まらなくなった。
お腹の中にいる我が子に産まれる前の愛称をつけるという話をよく聞くけれど、
そういうのも特になく、いつも呼びかけるときは“おーい"と呼びかけていた。
「じゃあ、今日から五右衛門って呼ぶことにする」
「まじか」
「まぁじかぁ、Aちゃんそれ女の子やったらつらいで!」
「いや、女の子だったらっていうかもはや性別どうこうの問題ちゃうやん」
「じゃあ、もんちゃんって呼ぶことにする」
「いや ちゃん付ければいいって問題なん」
けたけた笑う彼らを尻目に、ポコンポコン存在を主張するもんちゃん(早速こう呼ぶことにする)。
もはや話に参加することをやめた卓が、笑いながらわたしのお腹に手をやった。
しあわせだな。しあわせだね。
そうやってくだらない話をしているうち、
すでに時計の針は一周の半分をまわろうとしていた。
そろそろ戻ろうかという流れになる。
せっかく来たんだから見ていきなよ、という言葉をありがたく受け止めて、
邪魔にならないよう裏からこそっと観戦。
久しぶりに見る、家にいる時とはまったく違う、卓の姿。
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ななせ - コメント失礼します!とても面白いです!!中島選手大好きなんで更新いつも楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2017年9月8日 22時) (レス) id: 884c868c1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まいち | 作成日時:2017年8月11日 10時