ちいさな奇跡のはなし (ページ24)

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“今、出発しました。しゃっくり"

(しゃっくり…？)

練習から一旦あがって起動したスマートフォンに届いていた、AからのLINE。
およそ30分前に届いていたそれ。
語尾に付け加えられた一言の意味はよく解らなかったが、
それは適当に頭の中で受け流す。

30分前ということは、そろそろか？

…と、思ったとほぼ同時に、ロッカールームの扉が開いて、トレーナーと共に入ってきた彼女。

「失礼します、こんにちは…お久しぶりです」

どうやら、外出していた馴染みのトレーナーと、タイミングよく入口で遭遇したらしい。

きたよ、という風に、俺に目配せするA。

ロッカールームにはまだ人がまばらで、
チームメイト全員が集まっていたわけではないが、

あらためてなんとなく、彼女の紹介と入籍の報告をした。

なんだかんだ言って、Aとは初対面になるチームメイトもいる。

「卓が結婚ってな～やっぱりなんか信じられないよね」

そう笑いながら話しかけてきたのは、賢介さん。

「新婚コンビ」なんて呼ばれた頃もあったもので、
「卓はまだ結婚は先でいい」なんて、過去に何度も言われてきたものだ。

「Aちゃん、この人けっこう気難しいところない？」

「あはは、はい」

「ちょ、なんすか気難しいって」

「頑固なところない？」

「あは、それはありますね…」

「大変だよね～奥さん」

Aもそれはありますね…じゃないし、
賢介さんはいきなり何を言い出すのか。

あえて何も返さずに、苦笑いしつつ頭を掻く。

俺らに優しい眼差しを向けた賢介さんが一度ロッカールームを出ていくと、

それを確認したAが、俺のウェアの裾をクイクイッと引いた。

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