〇 ページ3
そう彼女の演技を初めて見た時のことを回想していたら、マネージャーらしき女性が彼女の肩を軽く叩いた。
女性は、目を開けイヤホンを片方外した彼女に何かを耳打ちする。
視線の先には、撮り終えた映像を確認している監督の姿。
きっと確認が終われば彼女が出るシーンの撮影が始まる。それを彼女に伝えたのだろう。
彼女はその様子を確認し、ひとつ頷く。
だけど、彼女は何をするでもなく準備が進むスタジオをただ眺めているだけだった。
次はこの作品のキーとなる難しいシーンだ。
そのシーンの撮影が目前に迫っているのに彼女の周りにはそんなこと感じさせない穏やかで静かな空気が流れていた。
難しいシーンの前、大抵の役者は台本を確認したり、次のシーンに向けて気持ちを作ったりする。
でも、彼女は特にいつもと変わらず自然体のまま自分の出番を待っていた。
「次のシーン行きます！お願いします！」
その声に彼女はやっと腰をあげ、大勢のスタッフの
輪の中に入っていった。
監督から細かい動きの説明をされている。
彼女はその指示を何も言わず、ただ静かに聞いていた。
彼女は、このシーンをどう解釈して、どう表現するのだろうか。
私は、これから彼女が見せてくれる演技を期待せずにはいられなかった。
「本番行きまーす」
スタッフのその声を合図に目を閉じる彼女。
そして、
「スタート！」
その声が聞こえると同時に目を開いた彼女は、
Aではなく、別人になっていた。
恋人を想い切なげな表情で涙を流す彼女。
その姿にスタジオにいる全ての人が釘漬けになっている。
彼女の演技を見ながら思う。
こんな解釈の仕方が表現の仕方があったのかと。
私には想像すら出来なかった演じ方だ。
先輩達が言っていた意味が分かる。
こんなの誰にも真似出来っこない。
「凄いな……」
思わずそんな言葉が口から飛び出た。
これ以上の演技はない。
そう感じずにはいられない彼女の演技にただ魅入っていた。
「カット」
その監督の声に、彼女の創った世界から現実に引き戻されて、ハッとする。
現実に戻ってきた私は再び彼女を目で追う。
そこには、もういつも通りの彼女がいて、何事も無かったのように、また同じように椅子に座っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 797人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
優(プロフ) - とても読んでて楽しかったです！続きのパスワード教えて欲しいです！ (2022年2月8日 12時) (
レス) @page37 id: 95db141eb0 (このIDを非表示/違反報告)
美加莉(プロフ) - さくらさん» あ！そうなんですね！！いえいえ、全然大丈夫です！ご対応ありがとうございました😭 (2021年11月23日 21時) (レス) id: d0142f9e8a (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - 美加莉さん» すみません！最初に小春という名前で始めた名残で一旦、小春という名前で書いて後で名前変換できるようにしています。ですが、所々出来ていなかったみたいです。サッと直しましたが多分まだ直せていない部分があると思うので、時間がある時に見直して直していきますね。 (2021年11月23日 21時) (レス) id: 7b4f4afa76 (このIDを非表示/違反報告)
美加莉(プロフ) - いつも楽しみに拝見しています！一つ質問なのですが名前の小春というのは主人公の名前なのでしょうか？ (2021年11月23日 21時) (レス) @page17 id: d0142f9e8a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さくら | 作成日時：2021年11月15日 19時
