きみにキスを９ (ページ5)

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155.帰りませんページ5

Aがみんなのコーヒーカップを洗いに行ってる間

大野さんとじいちゃんで交わされる絵の具やら画材やらの話題に取り残されてる俺は

さして興味もないけど、カラフルな絵の具の棚をフラフラと見ていくしかなかった。

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智「Aちゃん、旅行に行くと思えばいいんじゃないの？」

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ふわんとした空気を纏ったままの大野さんが

絵の具を物色しながら俺に向かって呟いた。

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和「旅行……ねぇ。」

智「気分転換でも…いーんじゃないの？」

和「……気分転換…ねぇ。」

智「ふふふ…そーんなにイヤなんだな(笑)」

和「………………ふん。」

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んな話聞いて、すぐにうんうんって首を縦に振れる程

余裕なんかないんだってば。

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和「……大野さんだったら、行かせるわけ？」

智「どーかなぁ…さすがに１年はなしかなと思うけど。」

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洗い物が終わって、店内を掃除するAが近くに来て

大野さんが手にしてる絵の具に食いついてくる。

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にこにこ笑いながら話す姿を見てると

かわいいなって思うし

やっぱり行かせたくないっつーか……

やっと会えたんだし、ずっとそばにいてくれたらいいのになって

……めっちゃ思ってしまったりする。

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和「A、片付け終わった？」

A「うん、もうおしまい。」

和「じゃ、帰ろ。」

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差し出した左手をきょとんとした顔で見つめるAに

ん？と首を傾げる。

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A「……自分の家にかえ…」

和「りません。ここでこのまま帰すわけないだろ？」

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Aの右手を掴んで
大野さんとじいちゃんに一礼して店を出た。

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Aがごちゃごちゃなんか言ってるけど

今は聞かないから。

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和「家帰って聞くから黙っててくれる？

さすがにタクシーに二人で乗り込むのは緊張すんの。」

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俺の言葉に一気に顔が強張ったAが

呼吸まで静かにしているのを見たら………

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逆に面白くて仕方なくて笑いが止まらなくなった。