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気づかないうちに足がその方に向かっていて、腕を乱暴にぐっと引かれてそれに気づいた。

暗かったし、あのいつものだっさい黒縁メガネも掛けていなかったように思えるけど芋くん…ドギョンスで間違いないはず。

あの建物に男女が入ってすることなんて一つしかない。

……まだ初夏も来ていないのにじんわり全身が汗ばんで気持ち悪い。

.

「……帰る、」

『は？Aちゃんが呼び出したんじゃん、笑』

「そういう気じゃなくなった」

『ちょっと待って待って』

ずかずか元来た道を戻り始めると肩を抱かれて方向転換させられる。

.

『あのホテルじっと見てたけどあそこ行きたかったの？もしかして俺が察せなくて怒ってる？』

「はあ？」

『ごめんごめん、俺が悪かったって～！』

ぐいぐい押される肩。

男の顔と二人の消えた先を交互に見てあることを思いついた。

『俺んちでもいーよ？』

「いいから」

『Aちゃん、ごめんって！』

「違うの。行くの」

『どこ？』

「………そこ、」

.

力の入っていない指先でそこ、を指す。

別に今から行ったって会えやしないことは知ってるけど、なんとなく。

いいでしょ？ってそう上目遣いで呟くとまたさっきみたいに気色の悪い笑みを浮かべて頷く男。

.

「……とりあえずやめとけ、ね」

中に入り込んでからようやくベクの言っていたことを思い出した。

靡かないって、どういうこと？

さっきの女の子は別に彼女じゃないってこと？

………わたしと、同じってこと？