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だけど、副社長ともあろう男が、秘書にこんな感情を抱いていてもいいのか？
そんなふうに自問して、何度も想いを伝えようとした決心を、自分で揺るがしていた。
そのせいか、逆に彼女への想いは日に日に募るばかりで。
出勤すれば必ず会うし、無条件に優しい微笑みを投げかけてくれる。
……でも俺、単純だからさ。
そりゃあ仕事だから、誰にでもそうやって、微笑んでくれるんだろうけどさ。
その表情があまりにも可愛くて、守ってあげたくなって、｢俺と一緒にいてほしい｣って思っちゃうんだよ。
たとえ、それが秘書としての務めであっても。
俺だけに、その顔を向けてほしい、って思っちゃうの。
……わがまま、だろうか。
これは、俺のわがまま……だよね？
公私混同ってやつ？
まさか、こんな近くにいる人に、惹かれてしまうなんて……
自分でもびっくりしてるから、どうしたらいいかが余計にわからない。
……だけど。
｢……ねえ｣
｢はい、何でしょう、副社長｣
勝手に悶々とした日々を送っていた俺は、ついに耐えられなくなった。
ガラス張りの外は、紅い夕日で染められていて。
もうすぐ夜がやってくる、そんな時刻。
薄暗くなり始めた空できらりと輝く金星と、寄り添うように白く浮かんでいる三日月が、俺の決心を固めてくれたみたいだった。
……引かれてもいい。これは俺の勝手なこと。
彼女が俺のことをどう思っていようが、俺が伝えたいからそうするだけ。
……これで、俺らの関係が終わってしまっても、後悔はしないだろう。
もう俺の下で働きたくないと言われたら、彼女の次の配属先は、俺が責任を持って決めるから……
どうか、聞いて欲しい。
俺の、たったひとつのわがままを。
｢俺……好きだと思う｣
｢え……？｣
｢……君のことが、好きだと思う｣
……驚いたのか、動きの固まった彼女。
いつも見せている余裕も、どこかで無くしてきたかのようで。
目を見開いて、動揺したように俺を見た。
｢……ああ、ごめん……驚かせた、よね｣
｢あの……えっと……｣
なんの前触れもなく言ってしまったことを、少しだけ後悔した。
……でも、こんなに驚いた表情、見たことない。
……きっと、嫌われた、よな。
当然のことだろうけど、こんなに驚かせてしまって、彼女の気持ちも確かめないで、一方的なわがままだけを伝えてしまった。
少し俯いた彼女を見て、ぼんやりとそんなことを思った。
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作者名：なの | 作成日時：2019年12月21日 0時
