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俺が副社長になったのは、つい3年ほど前のこと。
じいちゃんが第一線から退いて、親父が主となって会社を運営していくことになったのがきっかけだった。
でも、長男であり、それまでも本部役員として働いていた俺に、いきなり副社長なんて役を任されてしまった……というのが本当のところ。
別に副社長なんて器じゃないし、仕事のことは他の社員よりわかっているにしても、俺よりも優秀な人なんて山ほどいるはずだった。
……それに、孫だから、息子だからと言われてしまうのも、わかっていた。
じいちゃんが頑張ったおかげか、このコンピュータ社会で、この会社はそこそこの業績を残せるようになっていた。
俺を副社長にするのは、今まで家族で経営してきた名残だとは思うけど、このご時世にそれは単純すぎるんじゃないか……？
そんなふうに思っていたところに、転機が訪れた。
｢副社長になったんだから、秘書でも雇ったらどうだ｣
親父のそんな一声で、俺の知らぬ間に秘書が来ることになった。
俺は特に必要だとは感じていなかったんだけど、スケジュール管理とか、仕事の補佐をしてくれるし、仕事効率が上がるという点では、純粋にありがたいな、と思いつつ、対面の日を迎えた。
彼女はとても真面目そうで、俺よりも年下に見えた。
……可愛らしい女の子、とでも言えばいいのかな。
初めて会った時の印象は、そういう感じだった。
でも、一緒に仕事をしていく中で、ただの可愛い女の子ではないことは、すぐにわかった。
俺が求めていることを、先回りして理解してくれる。
それに、とても気配りができて、愛想がよくて、誰に対してもとても丁寧で。
秘書として、人間として、完璧な女性だった。
……俺は、そんな彼女に、惹かれずにはいられなかったんだ。
ただでさえ、恋愛なんてできない日々に。
こんなに魅力的な人が現れてしまっては、意識せざるを得ないのに。
……でも。
彼女は、どう思っているんだろう？
こんなしがない副社長の下で、完璧に業務をこなすこの人は、俺のことを、そんな目で見ているわけがない。
……どうしたらいいんだ。
こんなに単純な俺に、どうやったら振り向いてくれるんだ。
『……副社長？』
俺がこんなことで悩んでいるなんて、まるで気づいていないんだろう。
優しく、柔らかな笑みを、俺に向ける彼女。
そんなこんなで、軽く1年は悶々とする日々を送った。
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作者名：なの | 作成日時：2019年12月21日 0時
