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｢綺麗だね｣
｢うん……｣
俺は、彼女の言葉に相槌をうつのが精一杯で。
……なんで、こんなにドキドキしているんだろう。
光のゲートの中をくぐって、池の上に張り巡らされたイルミネーションが、水面に映るのをただ見ている。
それだけなのに、隣に彼女がいるだけで、こんなにも心臓が高鳴ってしまう。
周りのカップルたちと少し離れた場所で、ベンチを見つけて座る。
……あれだけ人がいたんじゃ、きっとそのうちに疲れてしまうだろう。
少しだけ遠くに見える光の海を、しばらく眺めていた。
｢……ねえ、A｣
｢何？｣
｢なんで、カップルがイルミネーションを見に来るか知ってる？｣
｢……綺麗だから？｣
何も話さないのもちょっと寂しい気がして、話題を探そうと思ったけど、これしか出てこなかった。
自分のトピック選びのセンスを疑うけど、この際なんでもいい。
二人で会話ができればいい。
Aの声を、聞きたいだけだから。
｢それもあると思うけどね。……人間って、強い光とか、ロマンティックな音楽を刺激として受け取ると、そばにいる人のことを好きになっちゃうんだって｣
｢ふふ、そうなんだ｣
……あ、今、ちょっと笑ってくれた。
彼女は、俺のどうでもいい話を、いつも面白がって聞いてくれる。
｢あと、暗いところで相手の開いた瞳孔を見ると、好意を持っちゃうんだってさ｣
｢じゃあ、イルミネーションを見に来たら、音と光と開いた瞳孔のせいで、相手を好きになっちゃうってこと？｣
｢そういうことみたいだよ｣
……そういうこと。
それが例え勘違いだったとしても、効果はあるみたいだ。
今の俺みたいに。
男は単純すぎるほどに単純だということを、彼女はどれくらい知ってるんだろう。
俺だって、今日はなぜだか、いつも以上にドキドキしている。
それがイルミネーションのせいなのか、クリスマスという雰囲気がそうさせているのかはわからない。
でも、また、彼女に対しての気持ちが大きくなっているのは、感じていた。
｢……でも、本当にそれだけなのかな｣
｢え？｣
ぽつり、と、少し遠くに見えるイルミネーションを見ながら、彼女が呟いた。
｢……好きな人と来てるから、大事な人だから、もっと好きになるんじゃないかな｣
……今度は、俺の目を見て。
少し上目遣いで、その瞳には、色とりどりの光が反射していて。
そして、その光の中に、俺が映っていた。
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作者名：なの | 作成日時：2019年12月21日 0時
