Night with N:ライバルの場合 ページ16
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｢……あ、やべ｣
時計を見てみると、針は丁度待ち合わせの時刻を指していた。
……これすなわち、遅刻。
クリスマスだからって、仕事が無くなるわけでも、上司が部下を帰してくれるわけでもない。
でも、こっちにはこっちの予定があるわけで。
スマホを取り出して、｢ごめん、遅れる｣とだけ打ち込み、メッセージを送信した。
そして、しっかり仕事は終わらせ、まだパソコン画面を見つめている同僚たちを横目に、忍びのようにオフィスを出た。
待ち合わせ場所は、いつものところだったはず。
もう15分も過ぎているから、そこにいなければ、またあの店に入っているかもしれないけど……
雪が降り始めてしまって、走るわけにもいかなくなった。
行き交う人と人の間を縫いながら、いつもの場所へと急ぐ。
……でも、やっぱりいない。
なら、あの店か……
電話をするよりも、そこに急いだ方が早いし確実だ。
仕事終わりのデートに俺が何回も遅刻をするせいで、最早行きつけになりつつある、純喫茶。
見慣れた店の見慣れたドアを押し開けると、ランプの絞られた店内に、ぽつんとその人はいた。
｢……30分遅刻｣
｢ごめん｣
むすっとした顔で、頬杖をついて、俺のことを見る。
……今日に限って遅刻なんて。
彼女の瞳は、そう言っているように見えて、少し心が痛む。
ちょっと不機嫌そうな顔をした彼女の向かいに、俺は座った。
……こんな日まで遅刻してしまうのは、俺だって本意じゃない。
彼女もそこは承知してくれているけど、それでも、30分はやりすぎだ。
｢……A？ごめんって｣
｢わかってる……仕事、忙しいんでしょ｣
ぷい、と顔を背けて、少し寂しそうに言った。
でも、忙しいのは彼女も同じ。
俺らは大学の同期で、同学科のクラスメイトだった。
情報系の勉強ばかりしていたせいで、学科内では就職はIT企業が主。
俺と彼女は、業界内ではライバルと言われる2社に、それぞれ就職した。
大学時代は、別に付き合っていたわけじゃない。
卒業してから数年後、同窓会的な飲み会に誘われて行くと、彼女がいた。
気になってはいたけど、学生時代、彼女には年上の彼氏がいたから、チャンスがなくて。
その飲み会の席で、｢今は一人なんだ｣と呟いていたのを、俺は聞き逃さなかった。
それから二人で会うようになって、ライバル会社に勤めてはいるものの、そんなのはお構い無しに仲は深まっていった。
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作者名：なの | 作成日時：2019年12月21日 0時
