▽ ページ13
.
しばらくして料理が運ばれてきて、二人で食べ始めた。
こういうお洒落なお店は久々すぎて、少し緊張しているのがお互いにわかる。
……確かに、何かの記念日とか、誕生日に来ることは時々あるけど、クリスマスには来たことがない。
雪の降り始めた窓の外を眺めながら、会話も少ないまま食事が進んでいく。
……どうしよう。
なぜ、こんなに緊張しているんだろう。
普段デートで外食するときよりも、どうしてだか、確実にドキドキしている。
……全く、俺らしい。
大事なプレゼンや会議の前に緊張して、息が上がってしまうのは誰にでもあることだと思う。
それと同じように、彼女とのデートは緊張してしまう。
特に、こういうイベントの時は。
幸せそうに食事を口元へ運ぶAさんを見ているだけで、俺の心は満たされるというのに。
……俺がエスコートするはずなのに、彼女よりもぎこちないんじゃ、格好がつかない。
ここは、しっかりしないと。
最後のデザートが運ばれてきたタイミングで、美しいスイーツに目を輝かせている彼女に、俺は声を掛けた。
｢ねえ、Aさん｣
｢ん？｣
｢これ……受け取って？｣
……今日、いつもよりも緊張していたのは、これを渡すためだからかもしれない。
普段、誕生日以外の日に、プレゼントを渡す機会があまりない。
今日くらいは、日頃の感謝を伝えてみるのもいいだろう。
きょとんとする彼女の前に差し出したのは、青いリボンの掛けられた、真っ白な小さな箱。
｢指輪じゃないよ｣
｢……ふふ、何かな｣
……指輪は、今日渡すべきじゃない。
俺らにとって、もっと特別な日に。
必ず、この人だけのための、とても綺麗なリングを用意して、誓いの言葉とともに渡すんだ。
だから、今日は、少し違うものを。
開けていい？って上目遣いで小さく訊いてくる彼女。
うん、と頷くと、彼女はその美しい手に箱を取って、リボンを解いた。
そっと箱の蓋を取り外すと、Aさんは息を漏らした。
｢……綺麗｣
俺が贈ったのは、雪の結晶がデザインされた、華奢なピアス。
彼女に絶対に似合う。
そう思って、店員さんと相談しながらこれに決めた。
今日も、一粒パールの上品なピアスを着けていて、とても似合っている。
その横顔が見える度に、その煌めきが、俺の心を揺さぶる。
……この雪の結晶を身に纏ったら、どんな風に見えるだろう。
そう考えるだけで、ドキドキしてしまうんだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 295人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なの | 作成日時：2019年12月21日 0時
