Night with S:上司の場合 ページ1
.
｢……こんな日に限って残業か｣
クリスマスとはいえ、年末であることに違いはない。
今年の仕事は今年中に片付ける。
それが、うちの会社の……というより、どこの会社でも方針になっているのだろう。
定時が過ぎてから既に2時間ほど経っているが、オフィスにはぽつりぽつりと人影があり、皆PCに向かって作業をしている。
俺も一つの課をまとめる人間として、部下たちが仕事を終わらせて帰るまで、帰るわけにはいかない。
｢櫻井さん、この書類のチェックだけお願いします｣
｢ああ……そこへ置いておいて。……あとはやっておくから、もう帰りな｣
｢ですが……｣
｢……待たせてんだろ？早く行ってあげないと……愛想尽かされても知らないぞ｣
2期後輩で、俺によく慕ってくれる部下。
一緒に飯に行くことも多くて、彼自身のこともよく話してくれる、言わば可愛い後輩だ。
そんな彼も、クリスマスは恋人と過ごす予定があるのだと、つい先日言っていたのを思い出した。
俺が促すと、すみません、と言って_____________
でも、とても幸せそうな顔で、足取り軽く、オフィスを出ていった。
……やはり、クリスマスというのは特別なんだろう。
大人になった俺らにとっては、それは特に、恋人や家族との時間を指す。
少しずつ人が消えていくフロアを見遣りながら、はぁ、と小さく溜息をつく。
……俺も、決して例外ではない。
だって、すぐそこに……
データが並ぶPC画面から目線を少し上げ、デスク2つ分先にいる、一心不乱にキーボードを叩くその人を見つめる。
あれ、とか言って、眉間にしわを寄せながら画面を覗き込む様子は、つい助けてあげたくなってしまうような。
そんな顰めっ面してたら、折角の可愛い顔が台無しだろうが……
そうぼんやりと考えた瞬間、ぱっ、と不意を衝いてこちらを向いた彼女と、目が合った。
……俺の視線に気がついたんだろう。
数秒間お互いに真顔で見つめ合った後、ふっと目をPCに向け直し、また顰めっ面をしながら、ぱちぱちとキーボードを叩き始めた。
……今日だって、本当はもう仕事を終わらせて、二人だけの時間を過ごしているはずだったんだ。
彼女は俺の部下だけど、恋人でもある。
……言わば、職場内恋愛。
俺らの関係は、会社の人たちには隠している。
もしバレて、いろいろと噂されるのも面倒くさい、というのが俺と彼女の共通認識だった。
だから、職場では普通の上司と部下なんだけど……
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 295人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なの | 作成日時：2019年12月21日 0時
