嘘と花束【ARS】 Part4 (ページ31)

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「俺も、ここに来るのは初めてなんだ」

「そうなんですか？」

「うん。前から噂には聞いていたんだけどね」

瞳をきらきらと輝かせて、嬉しそう。
松本さんの目に映る光は、とっても純粋なものだった。

「東京で一番、星が綺麗に見えるところだ、って言われてるんだって。一回来てみたくて……」

「確かに……すごく綺麗ですね。私、東京にこんなところがあるなんて、知りませんでした｣

都会に生きている私たちにとって、こういう場所は、本当に癒される。
心が落ち着く、というか……音はなく、光は空から降ってくる微かな月光と星明かりだけ。

松本さんに連れてきてもらえなかったら、絶対に知り得なかっただろう。

美しい夜空を、二人で並んで見上げる。
……こんな時間が、ずっと続けばいいのに、なんて思ってしまうほど、綺麗。

「……ねえ、A｣

「は、はい」

松本さんからの、呼びすて。
なんだか馴れないけど、くすぐったくて、嬉しくて、愛おしい。
普段と違う呼び方も、いいかな……なんて。

名前を呼ばれて、ぱっと松本さんの方を見ると、ぼんやりと見えるその表情は、昼間の儚げなものと、よく似ていた。
……まるで、夜空に吸い込まれて、消えてしまいそうな。

「……俺のわがまま、もうひとつだけ聞いてくれる？」

柔らかく、優しい微笑み。
それでも、なぜか哀しそうな光が、その目に宿っているのがわかった。

「はい」

どんなことを言われても、松本さんなら大丈夫な気がした。
真っ直ぐに瞳を見つめて返事をすると、松本さんは、少しだけ俯いた。

「……じゃあ、俺がこれから言う言葉は、聞き終わったら忘れてほしいんだ」

「え……」

……どういう、こと？

一瞬、空気がフリーズする。
私を見つめたまま、松本さんは続ける。

「俺ね。ここに来る時には、大切な人と一緒に来たいって思ってたの」

「大切な人……」

「……だから、Aと一緒に来たんだよ」

こんなに優しくて、真っ直ぐな想いは、私の心の中に、すーっと染み込んでいく。
その量が増えていくたびに、松本さんの消えてしまいそうな表情が気になった。

「……全部忘れてほしいなんて、出来ないかもしれないけど……ずるくて、ごめん｣

｢松本さ……」

私が言い終わる前に、松本さんの唇が、私の頬に触れた。

「……Aのこと、好きなんだよ」

そしてまた、少し哀しい目で、笑った。

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