嘘と花束【ARS】 Part4 (ページ21)

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二宮さんが傷つけたと思っているなら、それは違う。
そもそも、そんなふうに思う余裕なんて、私には存在しなかった。

今にも消え入りそうな声で、話を続ける二宮さん。

その姿は、なぜか……

いつもより、小さく見えた。

「だからね。ちゃんと、謝りたくて。本当に……ごめんなさい」

「謝らないでください」

二宮さんの言いたいことは、わかっているつもりだった。
でも、こうして真正面から頭を下げられると、私の心が、きゅっと締め付けられるような気がした。

……きっと、それは自分に起因しているからだ。

私が、しっかり自分の思ったことを、言わなくちゃならない。
二宮さんが謝るのではなくて……

入ってはならない場所へ、同時に足を踏み入れた、私も。

「確かに、びっくりはしましたけど……でも、二宮さんがそう想ってくれているってことは……嬉しかったです」

……更に、戻れなくなっていく。

本当の想いは言ってないけど、それでも、近いことを伝えてしまった事実に変わりはない。

……二宮さんの想いが嬉しい、ということは、少なからず私も、そう思っているということなんだから。

私の言葉に驚いたのか、二宮さんはぱっと目線を上げた。
そして、やっと、目が合う。

「……そういうとこだよ。俺が好きなのは」

そう言うと、不意に、ぎゅっと抱き締められた。

……強く、引き寄せられる。
予想もしていなかった展開に、やっぱり頭がついていけてない。

「ありがとう……A」

……愛おしそうに、私の名前を呼ぶ。
優しい手が、頭を軽く撫でていく。

……気がつくと、私も無意識に、二宮さんの背中に腕を回していた。

どこか心地良さがあるのは事実で、真夏並みの太陽が照りつけているにも関わらず、『こうしていたい』と思ってしまうほど。

空から降り注ぐ熱と、二宮さんの触れたところから直に伝わる熱で、体温が上がっていくのが解る。
それでも、しばらく離れることはなくて、波の打ち寄せる音で、ようやく身体が離れた。

目を見合わせ、互いに微笑みあう。

……どこか恥ずかしいはずなのに、なぜ、笑顔が零れてしまうんだろう。
この幸福な時間が、いつまで続いていくのかな。

熱に浮かされたような頭では、『いつまでも』を求めていた。

でも、私達は、この時はまだ気が付いていなかった。

砂を踏みしめて、遠ざかっていく足音に……

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