3.過去 ページ25
その日は雪の日だった。
雪は降り注いでいた。
しとしとと優しく、そして…冷たく。
きっとその前日は、今よりもっと大雪が降っていたのだろう。
私の体は雪に埋もれていた。
そんな冷たい雪の中、私の両手を強く握り
私を押し倒していた彼がいた。
「………ねぇ、君。その………で、
私を殺してくれないかい?」
冷酷な表情をしているものの、
笑みをうっすらと浮かばせる彼。
ぼんやりと聞こえたその声は聞き取れないところもあった。
「………殺すって、」
ようやく絞り出すようにして出た声。
どうしてこんなにも声が出せないのだろう。
「あぁ、……聞こえていたんだね。
気にしないでくれ。
………君、名前は?」
「リイナ………雨宮、リイナ」
無表情のまま、私は声を絞り出した。
何が、今起こってたんだろう。
どうして彼に押し倒されて…
見知らぬ彼以外の景色を求めて辺りを見回そうとする。
「駄目だよ。リイナ」
見知らぬ彼は片手から手をするりと放し、
その手で私の目を隠す。
「何するの……」
やめて、とか弱い声で私は呟く。
何故かこの時の
私は全てに失望していたからだろう。
「辞めない。これは君の為だ。
……リイナ、これからは僕の言うことだけを聞いてくれ」
「………どうして?
何で貴方の言うことを聞かなきゃならないの?」
「君の母親が、死んだからさ」
「………っ?」
彼の声には感情がなかった。
死んだ者を悲しむ感情、
…少なくとも私にはそれがあった。
大切な、大切な人たちの死を悔やむ感情。
「………嘘っ、何であなたがそんなこと……」
「父親も弟も、君の大切な人は皆死んだ。
君を1人、残して…」
涙が自然とこめかみを伝う。
今まで感じたことのない悲しさが、深く深く心に傷を負わせた。
胸が苦しい、痛い。
「─────」
貴方は何を言っているの……?
彼は私をむくりと起き上がらせて、
私を隠していた大きな手を目の前からなくした。
視界が広くなったにも関わらず私の目には
見知らぬ彼しか映されていない。
周りのもの全てがどうでも良くなった。
「───
そんなことになるなら───」
「………
………ふふ、そうかい。」
私の絶望した表情とは裏腹に見知らぬ彼は、笑った。
バカにするわけでもない。
狂気に満ちているわけでもない。
ただ純粋に───
「守られるものが、大切な人がいないから…私は───」
「……なら、」
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作者名:kana | 作成日時:2021年8月23日 20時