・ 夜の街(2) ページ39
それならば、簡単だ。
…太宰に、いつもしていることのようにしていればいい。
太宰のために………
笑顔を作った私は、一人の男に笑いかける。
「……はじめまして。
私は何をすればいいですか?」
それでも何故か身体が震えてしまう。
「……本来ならば店に入ってさっさと始めたいところだが、その前に…嬢ちゃん、俺に接吻してみろ」
「……?……せっぷん?
せっぷんって何ですか?」
この人はさっきから何を言っているんだろう。
太宰に教えられていないことを口にしてばかり。
私は笑顔を崩さなかったが、戸惑った顔をした。
「接吻も知らねえのか…!」
「接吻はこうするんですよ」
言葉を口にした美江さんは刹那、目を閉じる。
そうして、もう一人の男の唇に対して自分の唇を近づけ───
そのまま唇をつけた。
大人っぽいような、そうじゃないような音が耳に届いたのは一瞬だった。
そして、それの意味が分からなかった私だが、何故か見ていると恥ずかしくなる。
私がほんのりと頬を赤らめていると美江さんが一言。
「これは愛し合う2人がすることなんです」
愛し合う…2人?
私は名も知らぬ男に目をやる。
私は…この人と愛し合っていない。
それなのに……接吻をしなきゃいけないの?
でも、しなきゃ………
プリズナーの情報をもらえない…
太宰に捨てられる、褒めてもらえない。
しばらく俯いていた私だが、
私はついに覚悟を決めて…
「わ、分かりました…」
男の人の顔の高さまで背伸びをした。
ドクドクと恐怖に似た心臓の音が私の身体中を響き渡る。
しなきゃ…しなきゃ太宰に……っ
恐怖の音を立てる心臓を抑えつけ、
私は目を閉じた───
「………ッ」
´
´
´
───接吻の音は聞こえなかった。
「───見つけた」
刹那、その声と共に聞こえる2発の銃声。
カランカランと弾丸が落ちる音と同時に私と接吻をする相手だった男は私から離れる。
ドサリと大きな音がしたかと思うと男は頭から血を流して、地面を背にして倒れたのだった。
「……え」
私の目の前で倒れた男の姿が目に映る。
内心安心しながらも、私は笑顔で表情を隠せない。
「許可無しに一人で出歩くなんて…私は教えた覚えがないのだけれど」
遠くから歩み寄るその声の主………
私は姿を確認する前にはっとして、その声の主の名前を呼んだ。
「───太宰っ…!」
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作者名:kana | 作成日時:2021年8月23日 20時