-マンハッタン-を贈る ページ33
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『もしもし』
「おぉ、出た出た。元気やった？」
『こっちは元気にやってますよ、森田さん』
さらばの森田さん。私たちを初めて可愛がってくれた先輩で、私たちを吉本に入ることを勧めてくれた人でもある。恩人だ。
森田「今、タバコ吸ってそうやな」
『あ、なんで分かったんすか。正解ですけど』
森田「なんかそういう喋り方してた」
『そんなんあるんすね〜･･･』
お前分かりやすいもん、とゲラゲラ笑われる。そんなものなのか。そう言えば、森田さんと久しく話してなかったかもしれない。まぁ、森田さんが大阪にあんま来てくれへんって言うのと、私が頼らないだけやけど。
森田「最近頑張ってるやん」
『そうですね』
森田「やっと世間にバレ始めたって具合か」
『まだバレてもないんすよ』
森田「え？でも、最近めっちゃ劇場出てるやん」
『そうですかね？周りに比べたら全然･･･』
森田「そりゃ、周りと比べ始めたらそうかも知らんけど･･･俺はお前のどん底知ってるからこそ嬉しいで」
『どん底･･･あぁ〜･･･朝日劇場時代のこと言ってます？』
森田「言ってる、言ってる。まぁ、俺らも俺らで色々あった頃やけどな」
『そうですねぇ〜、前後はめっちゃ話聞いてましたもん』
森田「お前は、俺に着いてきてくれたもんな」
『進もですよ』
森田「お前らは、ええ奴やからなぁ･･･」
色々と迷走して、奔走して、死ぬほど泥水すすったあの時代。今となれば、笑い話かもしれないが、当時からしたら死ぬほどお笑いが分からなくなる時期に決まっていた。結果として、あの地獄から残ったのはハインリッヒ姉さんと私らと黒帯。屍を踏んで踏んで、這い上がった。
森田「俺は嬉しいんやで？電話してこんってことは上手くいってるってことやん」
『えぇー、でも飲みたいっす』
森田「お前らが仕事で東京来たら、そん時は飲ましたるから！」
『言いましたね？』
森田「言った言った！約束な！」
『よろしくお願いします』
森田「じゃあ、頑張れよ」
『･･･ていうか、なんで電話してきたんすか？』
森田「お前の声聞きたかった」
『何それ』
森田「それだけやから、元気そうで良かった」
『じゃあ、失礼しますね』
森田「はーい」
電話を切った。なんか、あの時のこと思い出してまうな。
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作者名：明烏 | 作成日時：2021年11月24日 8時
