傘を持たない僕たちは (ページ3)

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「本当にいいのか？お母さんとは、会えなくなるぞ？」

自分で提案しておきながら、もう一度確認する。

「うん…今のお母さんになら、会わなくてもいい…
会いたくない。お母さん、シゲのこといらないもん。」

そう呟いたシゲに、胸が握りつぶされるような想いだった。

母親が戻ってくる前に、家を出た。

と言っても、この子の様子から見るにしばらくは帰ってこなさそうだけど。

それは、俺にとっては好都合だった。

これは、完全に誘拐だ。

母親が、子供がいないことに気づいて通報した瞬間、俺らは追われる身となる。

「ねぇ、お兄ちゃんはなんでシゲと一緒に来てくれるの？」

「…貴久。名前、貴久だから。」

施設では俺は近寄りがたい存在で、名前ではなくお兄ちゃんと呼ばれていた。

だけどシゲにはなぜか、ちゃんと名前で呼んで欲しいと思った。

シゲは、少し照れた素振りを見せると言った。

「貴久くん、なんで一緒にお父さんのところに来てくれるの？
貴久くんも、逃げたいの？」

貴久くんも、ということはシゲも逃げたがっているということで、その対象が母親だということは明白だ。

「そうだな、俺も逃げたい。」

「なにから？」

「現実っていうの？」

誤魔化すこともできたんだけど、したくはなかった。

「げんじつって？」

「うーん…今いるところ？」

「じゃあ、シゲと一緒だ。」

こうして、俺ら二人の逃避行が始まった。