8小節目 ページ10
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「そんなにおもろいとこちゃうやろ。」
春もまだ早いこの時期時化ている海を見せて何が楽しいと思ってもらおうだ、と内心悪態をつくがそんなことを知る由もないこの脳天気なお花畑の女は本気で喜んどるみたいで小躍りしとる。
確かこいつの国は首都が内陸部にあるからか相当珍しいんやろう。
ま、楽しいなら何も無い虚しい海を見せてやってもええか、と思うくらいには随分とこの女にも慣れたもんやと我ながら拍子が抜ける。
「大きい！波の音！わっ！風強ーい！」
「遠く行くなよ。」
仕事中には決して見せない隙、何も考えていないようで案外考えているらしい未来のこと。それにいつもはやかましいくせに偶にふと静かに何かを考えるような素振りを見せる様子。
今まで相手したどの女よりも本質的な所を飾らず見せてくる女……Aは気が許せるとは言わんが軍の話したことある部下くらいには思えている気がする。部下やなんて言った暁には「私はあなたの下につく人間では無いわ！」なんて目くじら立てるんやろうけど。いや俺あいつの解像度上がりすぎやろ。
「そりゃ朝から晩までこれやもんな。」
「これってなによ。行かないわよ！分かってる！ってかタバコ吸ってる暇あったら波打ち際に行って勝負よ！濡れた方が負けね！」
「は!?お前ガキか。」
「ガキで結構！っぎゃ危ない！」
「濡れたらお前車乗せへんからな。っぎゃぁ！」
「濡れたら？車に乗れないのよねー？」
「お前が！な！」
「わっ！ちょ、風邪ひいたらどうしてくれんのよ！てか濡れたレディを総統様の目の前に出す幹部がどこにいるのよ！」
「ふはっ！そんなんグルッペンは気にせんからのぉ寧ろ水も滴るいい女にして出したるわ。ほれこっち来い！」
「ちょっと！」
前言撤回、コイツ悪ない。
Aの無邪気さにさすがに俺も毒っ気抜かれた。
昨日シャオロンに「Aちゃんにあんま辛辣やなくなったよなお前。」とニヤニヤされたけど根負けや。
悪ない、うん。
むしろええ。
「ほなそろそろ帰るで、A。グルッペンが待っとる。」
「あー楽しかった！分かったわ！って名前……？」
「なんや間違ってないやろ。」
「ええ！ただ……何でもないわ！行きましょ！」
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作者名：ミューゼス | 作成日時：2024年3月5日 14時
