5小節目 ページ6
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「おやすみなさい。」
あいつにとっては何気ない一言なんやろうけど、わざわざ俺を引き止めて言うほど価値のある言葉か？
シンプルなその一言が気になって寝る時まで頭の中に残っていた。
「おはよう、コネシマ。」
「準備できたやろ、出るぞ。」
「挨拶くらい返しなさいよね！ったく……準備はできてるわ。」
おやすみ、おはよう。
俺が返さなくても挨拶は大事よ、とブツクサ言いながら車窓の外を見るこの女。
昨日と比べて随分薄化粧のこいつは幼く見えた。
「Aさん、ご到着後はテレビへのゲスト出演、ライブ前の会見、その後幹部の方々とライブの演出についてお話の予定があります。」
「幹部直々にこう接してもらえるなんて大したものね私も。」
「お前のライブ演出が滅茶苦茶から文句付けんねんぞ分かっとんのか。」
「そうなの？めちゃくちゃかしら。あなた方には私の芸術はまだ早かったかしらね〜？」
企画書は俺も目を通したけど文字通り滅茶苦茶。トントンの眉間の皺がさらに深くなっとったレベルやった。運転手にありがと、と声をかけて一目散に先に着いていた社長の男に駆け寄っていくアイツ。運転手の顔はいつも仕事に真っ直ぐな癖に少し綻んどって、調子に乗るなと横っ腹をどつくと遠くから虐めはダメよ！と指を刺して叫ぶアイツ。
今まで見たことのないタイプの女に正直俺は手を拱いていた。知る由もない、知る必要もないと頭の隅に追いやっても物事のタイミングは上手くいかんことが続く時は続く。
「お、ショッピ君何見とん！」
「コネシマさん。今チーノからAさんの布教受けてました。俺と同い年やったらしいっすわ。」
「……もうちょい若いか思ってたわ。」
「両親に先立たれてあの社長さんが文字通り拾って、そこから華やかな芸能界へって凄いストーリーですよねえ。……コネさん？」
あんな能天気の正義厨みたいなんでも案外そんな過去があるんや。
「あートントン？俺も午後の会議出るわ。え？いやー、出たらあかん？ほなええやろ。」
「あれ、コネさんもAに興味出てきました？」
「ちゃうわあの破天荒能天気娘、今んとこ俺が一番扱い分かっとるから言うこと聞かられるやろ。」
「とか言っちゃってー？」
「無いからな？」
うんうん、無いわあんな女。
ちょっと身の上が似とるからって、そんなんこの国に余るほどおるやろ。
そんな事だけで興味を持つことなんてあらへんわ。
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作者名：ミューゼス | 作成日時：2024年3月5日 14時
