泣き虫継子 弐【宇髄天元】

17.20 ページ32

宇「上弦の鬼には、煉獄でさえ負けるのか」


鎹鴉から杏寿郎の訃報を聞いた天元は、屋根の上で険しい表情を浮かべながらそう呟いた。


思い浮かぶのは、杏寿郎と共に任務に行った自身の泣き虫継子のAのことだ。Aは杏寿郎や実弥によく懐いていた。


煉ーー宇髄！君の弟子を俺にくれないだろうか！ーー


宇ーー誰がやるか！！ーー


杏寿郎はAを自分の弟子にしたがった。もちろん天元は断ったが、それでも宇髄邸にやって来てはAに稽古をつけていた。


そんな杏寿郎が、Aの目の前で亡くなったのだ。


上弦の鬼と闘って。



200人の乗客を守り抜いて。



Aは今、何を思っているのだろう。



煉ーー宇髄。君の継子は素晴らしいな！とても立派な隊士になった！強くなった！君の教えは間違っていない！ーー


A、天元、杏寿郎の三人での任務のあとに、杏寿郎にそう言われたことがあった。


強くなった、と。


そう言ってくれたのを、天元はふと思い出していた。


宇「…………」


●


●


●


『煉獄さん……』


泣きながらその名を呼ぶと、体の底から悲しみがこみ上げてきて、音を立てて崩れ落ちていきそうだった。


二人は隊服の上から己の心臓を掴んだ。


煉ーー俺は炎柱・煉獄杏寿郎だ！ーー


杏寿郎と始めて会ったあの日。とても強い人、と言うのが見て分かった。


“心を燃やせ”


“歯を喰いしばって前を向け”


思い出される数々の言葉達。


炭「煉獄さん……」


炭「『煉獄さん………っ』」


さようなら。


ありがとう。


杏寿郎がくれた“光”が


“炎”が


炭治郎とAの心に


灯っていた。

作者より→←17.19

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す