第四十二話 ページ42
「戦…戦ね…」
洗剤からふわりと舞った泡が鼻先でぱっと消える。皿同士がぶつかるかちゃかちゃという音と水の流れのみが満たされる厨房で、私は一人考えていた。
彼等の指摘通り、私は例の強制重傷事件以降一度も戦に出ていない。戦はおろか、演練にすら出ていないという不甲斐ない体たらく。これでは流石にいけない。ただ、いけないとは思うのだが、意識すると完全にあの流血沙汰がフラッシュバックしてしまう見事なまでのトラウマタイズ。もうどうしたらいいのか。
「楢洲間さんに相談案件、か…ん？」
最後の皿を溜息と共に拭き終われば、ふと浮かんだ先輩の名から思い出した。先ほどまで自分の手元にあった手紙がない。まあ、机の上に置いてきたのだろうと楽観的に首を傾げて皿を置いた。
その時だった。
「…あるじさま」
「ヒッ」
音もなく気付くと背後から声、そして引っ張られる袖。すごいデジャヴ。あっこれ知ってるやつ。そう思う前に体がビビってしまったことに申し訳なさが後から湧いてくる。
「さ、小夜さん…すみません、慣れなくて…」
「…仕方ないと思う、から。気にしないで」
ふるりと小さく首を振った小夜に何か用事があるのかと聞こうとした瞬間、背後からガシャン！と何か大きなものが倒れる音。そして断続的に聞こえる大きな足音。なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「…えっと、小夜さん…ご用件は…」
「…陸奥守さんと、和泉守さんが、鬼ごっこを…でも、危ないから」
「主！何をしている！早く止めないか！」
小夜の報告、部屋に飛び込んできた蜂須賀の怒声。
ああ、胃が焼ける音ってこんな音がするのか。
＝＝＝
慌てて現場に駆けつけた私たち一行が目にしたのは、陸奥守とそれに全力で向かっていく和泉守の図。何なら抜刀しているし、その周囲には家財がしっちゃかめっちゃかあらぬ方向に飛び交っている。これを見て鬼ごっこというのは無理があるんじゃないか、小夜よ。思わず唖然とする私を尻目に、此方を目敏く発見した二振りはばっちりターゲットを変更してきた。
「おお、おんし！いいところに！此奴の頭冷やすが手伝って欲しいぜよ！」
「テメェ！よくもこのオレをこけにしやがったな！」
「はい…！？」
何故彼等はこんな情景を生み出してしまったのか。何故和泉守はキレているのか。何故私が彼を馬鹿にしたことになっているのか。何もわからないまま、今は兎に角場を抑えなければと必死で止めに入った。
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羅胤(プロフ) - 黎明さん» 黎明さん、コメントありがとうございます！まさかこんなに期間が空いてる中、待っていただけていたとは…恐悦至極と同時に、大変申し訳ないようにも…（ううむ）改めて更新に励ませていただきますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。 (2021年4月24日 2時) (
レス) id: 37cf65dc3f (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - 初コメ失礼します！！更新ありがとうございます！初めてこちらの作品を読ませて頂いた時から更新されるのを楽しみにしていました！！これからも応援しています！ (2021年4月23日 23時) (レス) id: 6e1910104e (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - いつも更新楽しみにしています！ ついに殿堂入りされたんですね！ おめでとうございます！！ これからもおからだに気をつけて、頑張ってください！ (2020年12月6日 21時) (レス) id: 1f4e240a3c (このIDを非表示/違反報告)
ﾊﾝﾃｽ@読専(プロフ) - 羅胤さん» そうなんですね!私も夢主ちゃんの姿創造しながら楽しみます!レスありがとうございました!m(_ _)m (2020年12月2日 15時) (レス) id: a78139392e (このIDを非表示/違反報告)
羅胤(プロフ) - ﾊﾝﾃｽ@読専さん» ハンテスさん、コメントありがとうございます！自分は夢主の姿が現実離れしていると萎えてしまうタイプなので、敢えて作者として書かずに読者の皆様に想像の余地として残しています。お好きなようにイメージしていただければと思います。ご質問ありがとうございました！ (2020年12月2日 15時) (レス) id: 6b5b4b25ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：羅胤 | 作成日時：2020年11月27日 11時
