第三十五話 ページ35
礼をしてから何秒経ったか。やたらと長く感じる沈黙を先に破ったのは、宗三の方だった。
「上に立つ者とあろうものが、そう簡単に頭を下げるものではありませんよ」
溜息混じりに腕を組む打刀は、続けて「ほら、顔を上げてください」とまるで犬猫にでもするようにしっしっと手を振ってくる。一先ずなんとか理解を示してくれたのは良いが、その動きはどうなのか。些か不本意さを感じながらも営業スマイルは忘れずに顔を上げると、側の小夜もほっと安心したように息を吐いた。心配をかけてしまっただろうか、なんて少し申し訳なくも思う。
「もう夜も遅い。明日も内番の予定を組んでいることでしょうし、早めに済ませてしまいましょう」
「…ええと…では兄弟水入らずということで、私は執務室に…」
「…あるじさま」
しれっと退路を確保しようとすると、また小夜があの目で見てくる。やめてくれ、私はそういった言語外の圧に弱いんだ。適切に刺さるからやめてくれ。それに先程は擬似的に一対一の会話だったから良いものの、此処で引き込まれたら私まただんまり地蔵になってしまうぞ。いいのか。でも此処でそう言ったところで小夜が納得してくれるかどうか…
「で、どうするんです」
「…お邪魔します」
心の中で若干引きつりながらも、結局魔の三白眼には逆らえなかった。
===
まだ使われ出して間もない座布団は、ふわりとした心地で己の体重を受け止めてくれる。自身の前に綺麗に揃えられ、付喪神に扱われているものに対してもそれは変わらない。だが眼前の二人がそれに類するような反応を示している素振りは見られない。左文字よ、感情を抱け。
「これが羊羹ですか」
「…僕も、あるじさまにもらって初めてみました」
「話には聞いたことがありますが、実際に食べるのは初めてですからね」
向かい合う此方の様子など気にすることもなく、二人の視線は目の前の皿の上に集中している。やっぱり私いなくても良かったんじゃないか。そう思わざるを得ない。歌仙にはああ言われたけれど、そりゃあ帰れるのであれば帰りたい。元より対人関係の構築が特別得意というわけでもないのだから。
「ところでお小夜、毒味は済ませましたか？」
「…いえ」
「あまり気を抜いてはいけませんよ。いつ何処で首が狙われるかなど、わかりはしないのですから」
「…はい」
意識が飛んでいる間、左文字二人はというと何やら物騒な話をしているようだが、此処は聞かなかったことにしようと思った。
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羅胤(プロフ) - 黎明さん» 黎明さん、コメントありがとうございます！まさかこんなに期間が空いてる中、待っていただけていたとは…恐悦至極と同時に、大変申し訳ないようにも…（ううむ）改めて更新に励ませていただきますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。 (2021年4月24日 2時) (
レス) id: 37cf65dc3f (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - 初コメ失礼します！！更新ありがとうございます！初めてこちらの作品を読ませて頂いた時から更新されるのを楽しみにしていました！！これからも応援しています！ (2021年4月23日 23時) (レス) id: 6e1910104e (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - いつも更新楽しみにしています！ ついに殿堂入りされたんですね！ おめでとうございます！！ これからもおからだに気をつけて、頑張ってください！ (2020年12月6日 21時) (レス) id: 1f4e240a3c (このIDを非表示/違反報告)
ﾊﾝﾃｽ@読専(プロフ) - 羅胤さん» そうなんですね!私も夢主ちゃんの姿創造しながら楽しみます!レスありがとうございました!m(_ _)m (2020年12月2日 15時) (レス) id: a78139392e (このIDを非表示/違反報告)
羅胤(プロフ) - ﾊﾝﾃｽ@読専さん» ハンテスさん、コメントありがとうございます！自分は夢主の姿が現実離れしていると萎えてしまうタイプなので、敢えて作者として書かずに読者の皆様に想像の余地として残しています。お好きなようにイメージしていただければと思います。ご質問ありがとうございました！ (2020年12月2日 15時) (レス) id: 6b5b4b25ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：羅胤 | 作成日時：2020年11月27日 11時
