第三十四話 ページ34
夜の帳が落ち、廊下を歩いて行く足下を風が抜けて行く。時節はもう冬、暖房機器のありがたさをこれ程まで感じる時が来るとは思わなかった。次回の給料日にはヒーターを買ってこよう。
軽く身震いしながら歩いて行く自分とは対照的に、少し先導するように斜め前を歩く小夜は全く表情を変えずにスタスタと歩みを進めている。歌仙が顕現した時もそうだが、矢張り自分が人間の身体を持っているのだという自覚とでも言おうか、感覚的な部分が顕現したてでは鈍いのだろうか。
(風邪を引く前に、なんとかしなきゃな…)
体調を崩されてはかなわない。尤も、彼ら刀剣男士が人間同様風邪を引くのかだとか、そういうことはよく分かっていない。政府向けの研究誌でも読めば分かるだろうか。そう思案しながら歩いていると、不意に服の袖をくっと引かれた。
「…ついたよ」
「あ、ああ…少し考え事をしていまして…すみません」
いけない、また考えすぎていた。自分であてがったはずの部屋の前に来たことに気付かないなんて。小夜は変わらない細い瞳のまま此方をじっと見上げていたが、小さく謝罪しつつ「先に入ってくれ」と仕草で伝えると素直に頷いて襖の前に立った。
「…宗三兄さま、ただいま」
挨拶を述べてからがらりと襖を開くと、部屋の中に灯されていた行燈の中の火が揺れる。うすぼんやりとした灯りに照らされて、幾らか骨張った後ろ姿が此方に振り返った。
「今日は遅かったですね、お小夜。もう月が昇っていますよ」
「…ごめんなさい。あるじさまと、話していて」
「いえ…構いませんよ。ですが、何故その主が僕たちの部屋に？」
ただでさえ小柄な小夜が頭を下げたからだろう。暗がりの中背後に立っている此方に気付いたのか、宗三は少しだけ目を開いた。警戒、とまではいかないが、幾らかの不信感を感じる。小夜の方も、それを見て迷うように羊羹を持ちながら此方を見上げた。
あまりよく思われていないのだろうか。来るべきではなかったのだろうか。ネガティブな思考がぐるぐると頭の中を回りそうになっているのを堪えて、出来るだけ笑顔を浮かべるよう表情筋に鞭を打つ。
「夜分遅くにすみません。小夜さんと執務室の方でお話しさせていただいていたのですが、その際に羊羹をお茶請けに出しまして。でも、小夜さんは自分一人で食べるより、お兄様と食べたいとの意向でしたので…」
ほんの付き添いです。そう笑みを称えたまま、此方を見つめる打刀に一礼した。
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羅胤(プロフ) - 黎明さん» 黎明さん、コメントありがとうございます！まさかこんなに期間が空いてる中、待っていただけていたとは…恐悦至極と同時に、大変申し訳ないようにも…（ううむ）改めて更新に励ませていただきますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。 (2021年4月24日 2時) (
レス) id: 37cf65dc3f (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - 初コメ失礼します！！更新ありがとうございます！初めてこちらの作品を読ませて頂いた時から更新されるのを楽しみにしていました！！これからも応援しています！ (2021年4月23日 23時) (レス) id: 6e1910104e (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - いつも更新楽しみにしています！ ついに殿堂入りされたんですね！ おめでとうございます！！ これからもおからだに気をつけて、頑張ってください！ (2020年12月6日 21時) (レス) id: 1f4e240a3c (このIDを非表示/違反報告)
ﾊﾝﾃｽ@読専(プロフ) - 羅胤さん» そうなんですね!私も夢主ちゃんの姿創造しながら楽しみます!レスありがとうございました!m(_ _)m (2020年12月2日 15時) (レス) id: a78139392e (このIDを非表示/違反報告)
羅胤(プロフ) - ﾊﾝﾃｽ@読専さん» ハンテスさん、コメントありがとうございます！自分は夢主の姿が現実離れしていると萎えてしまうタイプなので、敢えて作者として書かずに読者の皆様に想像の余地として残しています。お好きなようにイメージしていただければと思います。ご質問ありがとうございました！ (2020年12月2日 15時) (レス) id: 6b5b4b25ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：羅胤 | 作成日時：2020年11月27日 11時
