第十五話 ページ15
風の流れを感じると、昨日の晩のことを思い出す。陽の光が柔く差し込んでいる中であっても、あのうすぼんやりとした月夜が今も己を照らしている気になるのだ。そうやって自然に想いを馳せている間は、心なしか身が軽くなるようだった。
木の葉が揺れる。あと一寸先には、己を屠ろうとする敵がいる。その事実に、何処か昂る自分もいる。まるで、翔んで行けるような錯覚を覚える程に。
そして、未だ実感の湧かない人の子の肉体に冷たい空気を取り入れながら–––
「…我こそは之定がひと振り、歌仙兼定なり」
タッと地面を蹴った。
===
「歌仙さん…」
画面の向こうの様子を、執務室にいる私は固唾を飲んで見守ることしかできない。気付けば拳はきゅっと握られ、肩に力が入っているのが分かる。嗚呼、緊張しているのだ。滅多に気が張ることなどしないのに。でもそれも当然だろう、だって今し方まで触れていたあの熱が、命が、目の前で艶やかに舞おうとしている。その果てに風に吹かれ散ってしまおうとも、受け入れてしまいそうな危うさを感じてしまうのだ。
静かに事の成り行きを見守る中、歌仙は刀の柄に手をかけながらジッと息を潜め呼吸を続ける。しかし一度眼をしっかりと開くと、次の瞬間には陽の光を受け眩く輝くその刀身が、跳ねた身体と共に敵を捉えていた。
「…っ、行った…！」
こんのすけを膝上に置きながら抱きしめ、モニターに映る様子を食い入るように見つめる。
顕になった敵の姿は二体。まるで髑髏を模した妖のようなおどろおどろしい様相のそれは、陣形の穴を突かれたことが災いしたのか、急に飛び上がった影に動揺するような慌ただしい動きを見せている。その動揺を嘲り笑うかのように、歌仙は決して大鉈を振るうこともなく、あくまで身の幅の中ですぱん、と斬りかかった。
「首を差し出せ…ッ！」
鬼気迫る表情と物言いとは裏腹に、彼の動きは上品さを失う事がない。雅を自負するだけはあるのだろうか、なんて考えられるのは、何処か彼が問題なくこの戦を終えてくれると信じているからなのかもしれない。
「…この勝負…勝てる…っ！」
敵前にすたりと着地し対峙した歌仙の背に、鼓動が高まっていくのを感じた。
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羅胤(プロフ) - 黎明さん» 黎明さん、コメントありがとうございます！まさかこんなに期間が空いてる中、待っていただけていたとは…恐悦至極と同時に、大変申し訳ないようにも…（ううむ）改めて更新に励ませていただきますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。 (2021年4月24日 2時) (
レス) id: 37cf65dc3f (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - 初コメ失礼します！！更新ありがとうございます！初めてこちらの作品を読ませて頂いた時から更新されるのを楽しみにしていました！！これからも応援しています！ (2021年4月23日 23時) (レス) id: 6e1910104e (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - いつも更新楽しみにしています！ ついに殿堂入りされたんですね！ おめでとうございます！！ これからもおからだに気をつけて、頑張ってください！ (2020年12月6日 21時) (レス) id: 1f4e240a3c (このIDを非表示/違反報告)
ﾊﾝﾃｽ@読専(プロフ) - 羅胤さん» そうなんですね!私も夢主ちゃんの姿創造しながら楽しみます!レスありがとうございました!m(_ _)m (2020年12月2日 15時) (レス) id: a78139392e (このIDを非表示/違反報告)
羅胤(プロフ) - ﾊﾝﾃｽ@読専さん» ハンテスさん、コメントありがとうございます！自分は夢主の姿が現実離れしていると萎えてしまうタイプなので、敢えて作者として書かずに読者の皆様に想像の余地として残しています。お好きなようにイメージしていただければと思います。ご質問ありがとうございました！ (2020年12月2日 15時) (レス) id: 6b5b4b25ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：羅胤 | 作成日時：2020年11月27日 11時
