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『オニーサン、ここの人だったんだね』
「Aちゃん…なんで、」
俺があの場所に行けなくなってから1週間後、
もう二度と会うことは無いと思っていたAちゃんが何故か目の前にいた。
『身体、悪かったんだ…。病院抜け出すなんて颯太くんこそ不良じゃん』
俺の腕に繋がれたいくつもの管をみてAちゃんは眉を下げて笑った。
最初はほんの出来心だった。
外の世界を知りたくて飛び出した時、Aちゃんと出会って恋をした。
彼女の口から紡がれる外の世界は、
白くて無機質だった俺の生活に彩どりをくれた。
同じ世界で生きたいと思う反面、
抜け出したツケが回ってきたのかどんどん体調は悪くなって
今では口から栄養も十分にとれないから
こんな点滴まみれな姿を晒してる。
せめて彼女の瞳に映る間だけは
普通のオニーサンでいたかったのになあ。
「…ごめんね、話せなくて。…Aちゃん綺麗だからさ、いつか居なくなるもんに情をかけたらきっとまた心を痛めるでしょ？」
だからあのまま
俺のことはどうか忘れて欲しかった。
『…颯太くんって随分勝手なんだね』
そう言って俺の手を引いて病棟からどんどん離れていく。
「ちょ、どこいくの…、Aちゃん、ごめんね、怒ってる？なら謝る、から、ごめん、」
ちょっと早歩きしただけなのに息が上がる。
そんな俺に気付いて手を握ったままピタリと止まった。
『…おこってる。…すきなひとが急に目の前から居なくなっておこってるよ…っ。私は忘れたくないよ颯太くんのこと。勝手に決めないでよ…！』
ぽろぽろと大粒の涙がAちゃんの頬を伝う。
きらきらしてて、不謹慎にも綺麗だと思った。
怒った顔も笑った顔も、泣いた顔も
全部見届けたいと思うのは傲慢だろうか。
「…Aちゃんごめん、好きになってごめんね」
許してくれとは言わない、ただ、忘れて
(彼女の記憶から消えたくない)
(私の傍から離れないでよ)
･
続く
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作者名：Nanashi | 作成日時：2024年3月4日 23時
