凪の彼方 (ページ27)

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sota side

忘れ物取りに一旦空きコマで家に帰るとリビングからAちゃんの泣き声が聴こえた気がして勢いよく中へ押し入った。

檜山に肩を抱かれて泣くAちゃんが目に飛び込んできて思わず敵意にも似た感情を向けると、まっすぐ目を見てごめん泣かしたと白状された。

『そた、ちがう…っひやまくんはわるくなくて、ごめん、なさい…、ごめんなさい…っ！』

俺の服を控えめに握りしめるAちゃんの手に視線を落とす。俺の中で再会してから抱いていた疑問がある確信に変わった。

後ろめたいことを袖に隠してたんだろうことはなんとなく察しが付いていた。
それなのに俺はAちゃんにかける言葉を持てなかった。伝えることでAちゃんが悩んでしまうこともあったけど、その事実が明るみになることで湧の方が心配だったから。
俺だけが気付いてるなら黙ってる方がいいと思ってた。Aちゃんが話せるタイミングまで待てばいいと思ってた。

…けどそれは俺のエゴでしかなかったのかも。
第三者である檜山が気にかけてくれるくらい危うい状況だったことに今更気付かされて自己嫌悪に陥る。

大切が2つあるとむずかしい。

内村「…ひやまごめん。さっき怖い顔しちゃった。……そんでAちゃんにもごめんね。俺、ちょっと気付いてた」

檜山「…いや、俺はお前らの微妙な立ち位置とかそういうのは分かってやれないから気にしないで、」

泣かせちゃったのは事実だし、とAちゃんの背中を撫でる。
俺が大切にする人を大事に思ってくれる人がいるのは湧以外に初めてで、なんだか少し肩の荷が降りたような心強いような、不思議な感じがした。

『…そうた、ごめん。こんなこと…』

内村「…Aちゃん、俺、湧もAちゃんもどっちも大切で守りたいんだ。ふたりとも大切だから俺はふたりが笑っている隣で笑ってたいんだって気付いたんだ」

生きたいとか死にたいとかそんなのどうでもいい
わかんなくていい

内村「ふたりが笑ってないと俺は生きてる意味が無いと思ってる。ふたりは俺の太陽だから。それじゃだめなのかな？生きたくて生きるとか、そんな大層なことじゃなくて一緒に笑っていたいって思うだけじゃ、理由にならないのかな？」

『そうた…』

内村「Aちゃん、一緒に病院いこう」

心のもやもやに名前がつくと生きやすくなることもあると思うんだ
自分だけが頑張る必要なんてない
また笑ってくれるなら俺はそれで十分。

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