凪の彼方 (ページ23)

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waku side

黒田「…もー、2人ともAちゃんのことになると全然話聞かないんだから！落ち着け！
ひとまず正規の部屋じゃないし片付くまではリビングで過ごして貰わなきゃだから、お試し期間ってことでしばらくは家賃要らんよ。まずはAちゃん自身が体も心も休むのが最優先」

湧もうちむもちゃんと聞いてよね、と下げた頭をゆっくりとあげる。

黒田「Aちゃんがね、ちゃんと健康で働けるようになったら少しずつでいいからその月分から家賃貰う。後で契約書作っておくからそこで金額とか詳細は確認しようね。…どう？Aちゃん。俺は経営者としてこの条件で異論ないけど」

『……ほんとに、本当にありがとうございます……、よろしくお願いします……！』

黒田「うし！おっけ！深田とやーまんはどう？2人からしたらすこし納得いかないっていう意見があれば受け付けるけど！」

檜山「問題ないよ。俺もAちゃんが落ち着いて過ごせる場所が必要だと思うし、湧とうっちーのそばに居るのがいいと思う」

深田「ほんっとに懐深くてかっけえしみんな良い奴すぎて俺もうずっと泣いてるーー︎；；良かったねえAちゃん！！」

『みんな、ありがとう…っ』

高校2年生のあの時
俺たちを守ってくれる大人なんて居なかった

あれから数年
まだまだ大人とは言えないけど
今は手を差し伸べてくれる友人が増えた。

少しずつだけど
確実に前に進めてる。

元木「ゆっくりでいいから、まずはちゃんと休もう」

『…うん』

目の届く範囲に居てくれるなら
守れると思ってた。

確かに前には進んでいる
それでも傷だらけの心が同時に癒えていくとは限らないのだと
一緒に生活し始めて気づく。

昔決めた背中を叩く合図や手放せない頭痛薬を見かける度思い知る。
彼女の傷は深いのだと。

元木「…なあA､苦しくねえ？」

『…っ、わ、く。…また、浅かった…？呼吸…』

2回叩いた背中が小さく震えてる。

元木「…ゆっくり、ゆっくりでいいから。…俺に合わせて息吸って」

ゆっくり進めば大丈夫
Aはちゃんと生きられる

自分にも言い聞かせるように背中を撫でてやりながら一緒に深呼吸をする。

前に進めてやることがAにとって最善なのか分からなかった。

大事にするのが下手だから

また手放すくらいなら不幸なままでもいいから
俺の傍にいてくれればいいのに、なんて

俺も大概クソ野郎で自分に嫌気がさした。

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