凪の彼方 (ページ19)

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your side

湧は何も言わずに私の手を引いて
まっすぐ前だけを見て進んでいく。

本当は聞きたいことが沢山あるはずなのに
今の私はきっと上手に言葉を持てないから
ただ何も言わずに手を握ってくれる湧の優しさに甘えて
その背中を追いかけることに精一杯だった。

大きな一軒家のような外観を前に立ち止まる湧。

元木「俺と颯太さ今ここでシェアハウスしてんの。…そんで他にも同居人が居るんだけど…」

そう言ってバツが悪そうに頭をかく。

元木「…男ばっかなんだけど、なんて言うか絶対お前を傷付けたりするような奴らじゃないから安心して接して欲しい。Aを探すのも協力してくれたりしてさ、信用できる奴らだから」

高校生の時もさっきの姿も、私が大人の男の人にびくびくしてるのを湧はずっと知ってるから

私を気遣うようにゆっくりと紡がれる言葉におもわずまた涙が出そうになる。

『…湧の友達ならそれだけで大丈夫って思えるよ。むしろ急にごめんね、迷惑かけて』

出そうな涙をこらえるようにギュッと拳を握ると
それを開くように包む大きな手。

元木「…んな顔すんな。大丈夫だから」

そう言って大きな声でただいまーとドアを開け私の手を引いていく。

中からバタバタと聞こえる足音が玄関に近づいてくる。

内村「も〜飲み会だからって連絡しないのどうなのー？帰ってくんのおそすぎだよわく………？ぇ、Aちゃん………？」

『…そ、うた…っ』

内村「うそ、ほんとにAちゃん…？」

ほら、っと湧が私を前に押す。
その途端に長い腕が私と湧をまとめて強く抱きしめる。

内村「…良かったぁ……！Aちゃんがここにいる、ちゃんといるの夢みたい…っずっとずっと会いたかったんだよ…！」

そう言いながら声を上げて颯太が泣くから
私も湧もつられて涙が止まらなかった。

眩しくて、あったかい。

もう死んだも同然と思って生きていたこの2年間
ちゃんとふたりの中で生かされていたこと知った

元木「…おかえり、A」

ふたりの傍で生きていきたい
ちゃんと息を吸って、
あの日から止まった時間を取り戻したいと思うのは、もう遅いかな？

『…ただいま、湧、颯太』

これは寂しかった子供達が
大人になる途中のはなし。

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