指令10《モウイチドアノカオヲ》 ページ11
あれから数分が過ぎ、私たちは今、遊戯場に来ている。
遊戯場といっても、広い部屋に置いてあるのはダーツ台一台だけのかなりしょっぱい遊戯場であるのだけど。
奥に向かうと、赤色の扉と青色の扉があった。
まずは手前の方にある赤色の扉に入ろうとしたけど、鍵がかかっていた。
セルフフリーズ。
鍵がかかっているとはいえ開かない扉にムッとして、ガチャガチャとうるさくドアノブを鳴らす。
そうしていると兄さんの呆れたような声が聞こえた。
「……アイのそのクセはどうにかしないとですね……。このままでは、そのうちドアノブを壊してしまいそうです」
「……私には、知らないことがたくさんある」
「……たくさん、か?」
「……」
思い出すのは、あの邪悪な組織の手駒として過ごしていた日々。
冷たい父、忙しなく動き回る多くの人たち、人を人とも思わないあの笑顔、年月を減るごとに増えていく狐色の紙__。
__そして、液晶画面越しでしか会うことのできない、大切な友達……。
……彼、消されていないと思いたいけど……。
私がそう考えるのは、彼は私が組織から逃げ出すときに唯一力を貸してくれた人物だからであり、同時に、組織の監視のもとで生きているからである。
彼の事と、私がなぜ組織から逃げ出すに至ったかはまた別の機会に思い出そう。
今はまだ、そんなことはしなくてもいいと思うから。
「たくさん、ある。知らないことも、知りたいことも」
「例えば、何だ……?」
「例えば……」
「ジョーが持っていた雑誌に、カラフルな大きいわたあめの記事があった。
あと、サラやリョーコと遊びに行ったときにおもしろそうな映画があった。二人は見たがらなかったけど、いつか観に行きたい。
あと、あと……」
本当に、たくさんある。
__ここから、帰りたいな。
そうだ、帰ることができたら、兄さんと料理をしよう。
なんてことのない、日常の一ページ。
兄さんの得意料理のエッグベネディクトでも、作ってみようかな……?
うん、これが一番やりたいかな……。
……きっと、これが一番幸せなんだよね。
貴方が私に言ってくれたこと、ちゃんと覚えてるよ。
__「ね、シン……」
「それにしても、アイにやりたいことがあんなにあるとは思いませんでした」
「あれくらいの歳の子じゃき。当然の事ぜよ」
「……当然、ですか……
……そうなのでしょうね。
いつか、アイの"やりたいこと"、全て叶えてあげたいものです」
「それがいいかじゃ。アイはきっと喜ぶぜぃ」
(……またいつか、アイの目を輝かせて喜ぶ、あの顔が見たいものですね……)
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水菜 燁(プロフ) - Rinoko*@名前変えたいが名前が思いつかんさん» 私、妹設定が大好きなんです……!コメントありがとうございます、とても嬉しいです……!更新、頑張りますね! (2023年5月9日 7時) (レス) id: 8fb4aadd0c (このIDを非表示/違反報告)
Rinoko*@名前変えたいが名前が思いつかん(プロフ) - うわん妹設定めっちゃ好きです……文章も凄く読みやすいですね…!無理しない程度に更新楽しみにしていますー! (2023年5月9日 0時) (レス) id: 71db0bbe64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水菜 | 作成日時:2023年5月8日 0時