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…
電話を切った後、無駄に大きいベッドに横になった。たった一人でこの広い部屋の家賃を払い続ける意味は無い訳で、だったら私もこの部屋とお別れしようとダンボールに荷物を詰めていた数十分前。
いくつかのダンボールは数日前の景色と重なった。
別れ話を切り出されてからこの部屋の彼の片鱗を全て無くすまでの間、彼は実家に帰っていた。
ダンボールでいっぱいの部屋に私を残して。
嫌なぐらい物事を彼と結び付けてしまう思考回路は暫く続きそうだ。
約1年半過ごした彼との思い出は本当に濃密で、ネタじゃないけれど、何か適当に物を言われても全部それに纏わるエピソードを言える自信がある。
全く、笑えない。
────…ピンポーン
ボーっとしていた時、不意にインターホンが鳴った。宅配なんて頼んでいないはずだからきっとこの音はジェシーくん。
「ねえ、近くになったら電話するって！」
「Ahaha！ごめんごめん。忘れてたわ」
「ほんっと適当なんだから」
私の記憶の中にしっかりとこびりついてる "また近くなったら電話する" の言葉。その言葉があったから私はこうしてさっきまで怠惰になっていたのに。
きっと端から電話する気なんてさらさら無かったかのようにヘラりと笑うジェシーくんの肩を軽めに叩いて、部屋の中に入れた。
「ごめんね、無機質だけど」
「思ってたよりも引っ越し寸前だね。もしかしてAちゃんって切り替え早い子？」
何もかも知っているような口振りで粗方察した。あの人とかなり親しいジェシーくんは事情を知っているのだろう。一通り部屋の中を眺めた彼は、私のモヤを吹き飛ばすみたいにストレートを投げる。
「…知ってるんだ、ジェシーくん」
「大我からちゃんと聞いた訳じゃないよ？何となく察してたけど、この部屋で確信したって感じ」
「あはは、確かに。こんなんじゃ誰でも分かるか」
どこの誰がどう見たって同棲カップルの抜け殻なことは一目瞭然だった。ましてやそれがあの人の友達な訳だから、気付いたっておかしくない。
「………」
「………」
空気が肌にチクリと刺さるような、そんな空気感。気まずくて耐えられない無言が煩かった。
ジェシーくんは部屋の中に立ったまま、私の顔をじぃっと見てくる。その視線から逃げるように私は目を逸らしたり、意味も無く両手を絡めたり。
「寂しい？」
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作者名：3710 | 作成日時：2021年2月28日 19時
