恋する乙女よ、嘘をつけ。 (ページ8)

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「そんなむつかしい本。なんで借りたん」

音遊び、とピアノを軽くさわりながらこちらを一切見ずにたずねてくる。

「そんなに難しくないですよ。さては先輩、読まず嫌いですね」
「…その作者、あんまりソリ合わんねん…」

吉野先輩はどこか知的な存在。何でも知ってるし、何でもやっちゃう。
作者とのソリとか。私にはよくわからない。だってこれ借りたのも草川先輩がオススメの図書にあげてたからだし…

「そういえば、この前面白い詩、読んだんや。」

鍵盤から手を離した先輩は思い出すように天井を見上げる。

「“恋とはいつの時代も、儚く明るく楽しいものだ。だがそれはたまに姿を変え人々の心をむしばむ。だから恋には大事な約束がある。”」

そこで軽く息を吸って少し嬉しそうに微笑んで、先輩はまた口を開く。

「“恋する乙女よ、嘘をつけ。”」

なにか、なにかわからないものが体の中を走った気がした。あっけにとられてボーとしている私の顔に先輩は嬉しそうにデコピンをすれば

「今日も拓弥は元気やったで」

あひゃひゃと高笑いをした。

“恋する乙女よ、嘘をつけ。”

吉野先輩の声と、その少し知的に微笑んだ顔が頭から離れなかった。

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