僕達の一等星【紫】 (ページ8)

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まさかの質問に咄嗟の否定も言い訳も浮かばず、その態度自体が肯定してるようなものだと気付き正直に吐くことにした。

『嫌いではないですけど…』

「だけど好きでもないでしょ？」

はっきりそう口にした先輩は確信に近いもので気付いてるんだ、と悟った。そういえば先輩はとてもよく人のことを見ている、と蓮くんが話してたっけ。

あれだけ嫌悪していたけどいざ面と向かって聞かれると申し訳なさと居たたまれなさで口の中が濁り、飲んでいた紅茶が渋く感じる。

「あ、別に責めてる訳じゃなくて事実を確認したかっただけ。苦手と嫌いって雲泥の差じゃん？だからAちゃんがまだ俺のこと苦手なら挽回の余地あるかなーって思ってさ」

軽く言われたがその中に真剣な抑揚もあって、手のひらに閉じ込めていたマグカップから顔をあげればさっきとは打って変わった不安そうに目尻を落としている先輩。

「俺さ、なんかAちゃんの気に触るようなことしたかな。俺は君のこと好きだし出来ればもっと深く仲良くなりたいと思ってるから、Aちゃんが嫌だなって思う所は直したいって思ってる」

優しくて、ずるい人だとそれまでを覆す印象を初めて目の前の人に抱いた。

そんな柔らかい声で問われてしまえれば、ずっと持っていた警戒心や猜疑心などが少しばかり溶ける。

『…先輩が悪い訳じゃないんですけど、私、“可愛い”とかいう褒め言葉が苦手なんです。だからそれさえ止めて頂ければ少しはマシになると思います』

溢れた感情にオブラートをした言葉は口の中の水分全て奪い、潤す為に流し込んだ赤茶はまだ渋い。

暫くの沈黙、先輩は言葉を選ぶようにゆっくり反復する。

「それはAちゃんに対してだけ？それとも全員の女の子に対して？」

『私にだけ、です。私は先輩が他の女の人を褒めないで欲しいと言える立場の人間じゃないですし』

「え～俺Aちゃんにそう言われたら止める覚悟あるよ？」

心のこもってない言葉にジトリと睨めば勘弁してね、と言いたげに両手をホールドアップした。

「俺いつも本心で言ってるんだけど、それでも駄目？」

『駄目です。私はそういう言葉自体が駄目なんです』

「………おっけ。それで俺への警戒心が下がるならお安いものだよ」

聞きたいことは沢山あるけどね、と含みを持たせた視線とニュアンスには気付かないふり。

また飲み込んだ紅茶は渋みは消えたが冷えきって口当たりが痛々しかった。