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「…なにしてんの」
『突撃隣の晩ごはん的な…？』
急なバイトは本当だったんだな、と外廊下を歩いてきた蓮くんの憔悴した姿を見てほっとしたのは言うまでもない。
彼の部屋の前で待ち伏せしてどれくらい経ったのか、照り付ける太陽は今や地平線に完全に潜っていた。
大股で近付いてきた蓮くんは玄関先でしゃがみこんでいた私の腕を掴んで立たせると部屋に押し込んだ。
「なんで連絡入れなかったんだよ」
『無視されるかな、と思って』
「俺がそんなことするわけないだろ」
『でも最近私のこと避けてなかった？』
荒い言葉遣いながらすぐ部屋に冷房を入れ私に水を手渡してくる辺り本当に蓮くんは優しい。だからこそ私はちゃんと伝えないといけない。
ぴたりと止まった蓮くんの目を真っ直ぐ見つめる。久しぶりに面と向き合った蓮くんに懐かしさと優しい気持ちが込み上げてくる。
言葉を紡ごうと半分持ち上げた唇は彼の手によって制止されてしまった。
「あれは全部俺が悪い。Aがああいうの苦手だって知ってたのに感情的になりすぎた、ごめん」
『蓮くんが謝ることじゃないよ、あれは私が悪いの。蓮くんが告白してくれたのに私が曖昧にして甘えてたから』
「告白はまた改めてするって言ったじゃん」
『ついこの間されたから、』
「あんなのカウントに入れないで」
お互い言葉を被せるように発してむむむ、と睨み合う。するとそれまで険しい表情をしていた蓮くんが呆れたように顔を綻ばせた。
びっくりして目を丸くすれば「いや、久々だなと思って」と少し嬉しそうにしながら複雑そうに顔を崩して話し出した。
「ごめん、避けてたのは当たってる。あの日伝えたことは全部本心だし後悔はしてないけど、あそこで言うべきじゃなかったなと思ってて。そのタイミングでバイトが忙しくなったから丁度良いなと思って距離置いてた」
『……うん』
「Aが嫌がることはしたくない、でもふっかさんの近くにいるだけで余裕がなくなる位参ってるのもほんと。俺もどうしたらいいか分かんなくて困ってる」
困り眉になった蓮くんを見て胸を抉られたような痛みが走る。こんな誠実で真っ直ぐな人を困らせて、私は本当に駄目な人間だ。
パシン！！自分で自分の両頬を両手で叩けば良い音とじんじん痛む代償が頬と手のひらに残る。それを今度は蓮くんがびっくりしたように目を見開く。
『ごめん蓮くん。正直私もどうしたらいいか分からない』
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作者名：スピカ | 作成日時：2022年3月16日 22時
