僕達の一等星【紫】 (ページ30)

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「あれだけ寝ないって言ってたのに秒で寝たな」

『先輩は私より睡眠時間短いし何かと動いてたから…そう言う蓮くんもだけど。渋滞で当分動かないからもしだったら寝ててもいいよ』

「寝る訳ないでしょ、折角Aの隣確保できたのに」

帰り道、後部座席で機材を抱えながら爆睡をしている人をバックミラーで見ていれば隣から拗ねた声が聞こえてきて、視線を移せば蓮くんは窓枠に肘をつきながらその通りの表情をしていた。

「A、今回ずっとふっかさんと一緒にいたじゃん。あれわざと？」

『…どちらかと言ったら蓮くんが一人で大自然満喫してたからだと思うんだけど』

「まぁそれはあるけど…でもなんか距離縮まってない？前はもっと刺々しかったけど今はそこまで感じないし、寧ろ友好的」

相変わらず勘が鋭すぎるのか私が分かりやすいのか、そう問い掛けてきた蓮くんから一旦目を逸らし再度後ろの人がしっかり寝ていることを確認してから前を見据えた。

『蓮くんが機材取りに行ってる間ちょっとお話ししてね、それがあったからかな』

「…もしかして聞いた？ふっかさんの」

『蓮くん知ってたの？』

「だから俺二人を会わせたってのもあるし。お互い境遇が似てるから話合うかなと思ってたけど、そもそもAもふっかさんも自発的にそのこと話さないしまぁおいおいかなとは思ってた」

俺からは絶対話さないし、と付け加えた蓮くんにやっぱり優しいなぁと口の端が上がる。カーナビを弄りながらさりげなく今思ってる気持ちを打ち明けることにした。

『私のことは言えなかったんだけど先輩が“「話したいと思った時に教えて」”って言ってくれたんだよね。それがすごい嬉しかったし、こんなに誠実に向き合ってくれててそれに答えたいって思ったの。
……言葉にするって大切な事だって教えて貰ったから尚更』

先輩の大切にしてることがわかった今、この人ならきっと大丈夫だと思ってる自分とまだ怖がる自分がいるけど近い内に後者の自分は消えるだろうなと感じていた。

ちゃんと気持ち整理してからだけどね、と調整を終えた指を下げようとしたらその手を掴まれた。

『？蓮くんどうしたの？』

「…いや。A、前進んでる」

包んでいた手が離され、蓮くんがフロントガラスを指差したのと同時に後ろからクラクションが聞こえ慌てて発進する。

一瞬だけ交わった視線はなにか言いたげだったが、気が付くと蓮くんも瞼を閉じていてその時は理由を知れなかった。