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さて、昔話をしよう。と言ってもドラマチックでもなければ英雄譚でもない、面白味のないありふれた話。
俺の両親は仕事柄すれ違いの生活をしていて、揃って顔を合わせるのは年に数える程度。
普通の家族とは少し違っていたかもしれないけど、その数少ない家族団欒を大切に、優しく温かい愛情で育ててくれた両親が俺は好きだった。
小学生になっても変わることはなく、二人の仕事が円滑に進むように手伝いさえし始めた俺はこの生活がこのまま続くと疑わなかった。
そう、俺がもうすぐ中学生になると意気揚々としていたあの日までは。
“お父さん達、別々で暮らすことにしたんだ。だからお前はどちらかについていくことを決めて欲しい”
驚きを隠せない俺を見る両親は憔悴しきった中に安堵の色を覗かせていたこと、今でも鮮明に思い出せる。
“会わない・言葉を交わさない”という行為は両親にとって想像よりも辛く苦しいものだったのだろう。
それが蓄積されれば余裕なんてものはなくなってくるし嫌な所ばかり目につく。そしてそんな自分に嫌気も差してくる。
優しすぎた両親だからこそ、これ以上お互いを嫌いになることを恐れて離れることを決意したらしい。
子供だった俺の意思は無に近く、結局父親に引き取られて、今に至ってる。
「ほんと、それだけの話。同情買いたいとかそういうんじゃないのよ。ただ俺はね、Aちゃんには知ってて欲しいなって思ったの」
行動や態度だけでは伝わらない、想い合っていても言葉にしないと人は離れていく。
「俺がすぐ言葉にしてるのはそれが理由。それを軽いなーとか心にも思ってないなーとかAちゃんは感じてるかもしれないけど、俺は全部本気だからね?それだけ覚えてて欲しいな」
俺の過去はあまり人に言ってない。言いふらすものでもないし。でも、君にだけは知ってて欲しかった。
生半可な気持ちで俺は言葉にしてない。何なら、君に出会ってから他の女の子にはそういうことは言ってないんだよね。
褒め言葉も、可愛いも、好きも、全部君にしか向けてない。
この気持ちの正体は薄々気付いてるけど、それはまだ知らんぷり。
だって、君は今あの恩人兼ボディーガード兼幼馴染みのことで頭がいっぱいだろうから。
だから、今だけは、俺のことを想って頭をいっぱいにしてて欲しい。なんてその潤んだ瞳から溢れそうな雫にゆっくり指を伸ばした。
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作者名:スピカ | 作成日時:2022年3月16日 22時