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「この人、俺の高校の時の先輩」



今の大学に進学することが決まった後、蓮くんは前置きもなしに私と深澤先輩を会わせた。

後に訳を聞くと「入学してからお世話になると思ったから先に紹介しとこかなって」ということだそう。

初対面の人、しかも男の人。警戒心MAXな私とは対称的に対面の人はにこにこと頬杖をついて私を見つめてくる。



「へー、目黒にこんなかわいい女の子知り合いいたんだ」

「Aとは一応幼なじみなんすよ」

「うわっ!なにそれめちゃめちゃ良いじゃん!!」



眼鏡の奥の瞳を楽しそうに揺らして、もう一回私に視線を戻して笑いかけてきた。



「俺、深澤辰哉ね。好きなように呼んで良いからAちゃん」

『…え、名前』

「ああ。目黒からよく話聞いてたから覚えちゃった」



ちょっと待って。蓮くんが私の話を他人にしていたことにも驚きだしさらりと名前呼びをしてきたこの人にも驚いてるし何からつっこめばいいのか。

抗議の視線を向けるも呑気に運ばれてきた飲み物を飲む蓮くんは気付かず。その間もずっと見つめてくる目の前の…深澤さん。



「Aちゃん緊張してる?」

『へ?』

「さっきから全然目ぇ合わないからさ。いやぁ目黒の知り合いっていうからもっと明るい子かと思ってたけど…うん、かあいいね」



蕩けそうな程綻ばせた表情筋と左耳のフープピアスが照明に反射して光った瞬間、私はこの人に対して心のシャッターを全部閉じた。

言い慣れてる。こういう人は駄目だ。本能がそう告げていたから。



「ふっかさん、こいつそういうの慣れてないんでやめて貰っていいっすか」

「えー?事実言っただけなのに?」



流石に悟った蓮くんが私を庇ってくれたお陰で何とかその場は乗り切れたし、出来れば金輪際関わりたくない人物だった。

けれど、



「ここに赤く光る恒星と青く光る恒星があるけど、どっちの星の表面温度が高いと思う?」

『…赤い方じゃないですか?』

「残念。実は青い方なんだよね。高温ガスは青く光ることが多いから……しかめっ面してるAちゃんも可愛いね」



不本意ながら先輩は私達の学部所属で受講しておいた方がいい講義やいずれ所属する研究室の情報、ひいては専門的な知識を今から教えてくれてるものだからめちゃめちゃ頼っている。

今もまだ授業で習ってないことを先取りして教えてくれる姿には尊敬こそすれど、間違って顔を歪めた私に対しての言葉には更に顔を歪めるしかなかった。

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作者名:スピカ | 作成日時:2022年3月16日 22時

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