百七十三。全部、克服できる ページ23
ここから、昌一さんの品評が続く。
『まず、先付けの黒鯛の昆布締め。身の締まりと昆布の塩味、旨味の吸収は良いが、そぎ切りの目が荒い。均一の無さに繊細さが欠ける』
『花蓮根の酢漬け。甘酢の加減は良い。ただ、蓮根の色付けに少々ムラがあるのが勿体ない。ゆかりに加える熱の温度が高すぎるのだろう、気持ち5度ほど下げて濡らした和紙に包んでおくと良い。そうすれば蓮根の食感も損なわない』
『秋鮭の湯葉包み。湯葉に合わせるなら鮭の処理に僅かな甘さがある。もう少ししっかり塩を抜いて。水だけで塩抜きするより酒とみりんを加えた方がいい』
『渡蟹の蕪蒸し。これは蟹の塩味が足りない。ふんどしが開き切ってなかったんだろう、蕪蒸しの前にふんどしをしっかり開いて塩を振るのが重要。蒸し加減自体は悪くない』
あぁ…やっぱり、私の弱点は見抜かれている
次々と続く品評に心が折れそうになってきた。
『私の指摘は、これで以上だよ』
…え？
『Aちゃんは、やっぱり揚げ物と煮物は天下一品だな』
きっとまだまだ続く。
そう覚悟した手前、そんな言葉が降ってきて思わず拍子抜けする。
すると、ここまで静かに昌一さんの評価を聞き入っていた昌宏さんも『親父、同感』と、ようやく口を開いた。
『百合根と銀杏のかき揚げ。百合根の苦みを梅の風味と銀杏の甘さが調和して、絶妙。揚げ加減も文句無しだ』
『鶏つくねの黄金煮も。つくねのパサつきも全く無かった。卵黄と出汁のバランスも完璧』
思わぬ褒め言葉に、喜びより安心の気持ちが大きく勝って、また涙が込み上げてくる。
ダメ。ここでは絶対に泣いちゃダメ____
そう何とか奮い立たせようと身を固くするけど
昌一さんが続いて口にした言葉に、呆気なく涙を流すことになる。
『ここまで聞いていて、分かっただろう？』
『Aちゃんの惜しいところは、すぐに改善できることばかりだ。根本の、“味” へのセンスは間違いない』
『トシ子さんと、同じ味がするよ』
“この壺焼きなんてトシ子さんの味とまるで同じだよ。泣けてくるよ…”
「ッ…、ありがとうございます、…」
張り詰めていた緊張の糸が切れて、啖呵を切ったように涙が溢れる
『A。益々べっぴんにはなったけど、泣き虫だけは変わんねーな(笑)』
昌宏さんが私の頭をワシャワシャと撫でる。
『大丈夫。少しの間うちで過ごせば、全部克服できるよ』
昌一さんのその一言に、昌宏さんもニカッと笑った。
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ゆり:)(プロフ) - このお話が大好きで再開してくださり、とても嬉しいです。取材を受けられるなんてすごいですね！お店に行ってみたいです！ (2021年10月5日 20時) (
レス) @page31 id: 4c9de357d4 (このIDを非表示/違反報告)
miihoo(プロフ) - こんばんは。お仕事の方もお疲れ様でした。更新もありがとうございます。私もざっくり飲食関係の仕事なので身近に感じて毎回楽しみにしています。そしてこのお話の翔ちゃんが大好きです。続きを楽しみにしてますね！ (2021年10月2日 19時) (レス) @page27 id: 4ea876c979 (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 続きが楽しみです！楽しみにしています！！ (2021年9月19日 18時) (レス) id: afb0ab4a24 (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - こんばんは。元彼女め…とモヤモヤしますね( .. ) この後の展開がドキドキです！！更新楽しみに待っています！ (2021年5月29日 21時) (レス) id: 4f699932a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ティファニー | 作成日時：2021年5月23日 0時
