やさしい食卓三。【SS】 (ページ2)

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六十二。なんでそんなにページ2

『ニューヨークにいた頃はね』

エスカレーターに乗りながら、後ろに続く私に彼が口を開く

『毎年メッセージカードとアレンジフラワーを送ってたんだけど、どうやら最近は親父もお袋に毎年花束を贈ってるらしくて』

『それなら、今年は何か違うものにしようかと思ってさ』

そう言った彼に着いて降りたのは、様々な雑貨店が揃うフロア。

『ん～マグカップは、妹があげたって言ってたしな』

食器売り場を眺めながら言う彼の言葉で、彼に妹さんがいるという事を知る

.

今日一日で、彼の事

どのくらい知る事が出来るかな？

.

櫻井さんの過去の経験をもとに、

2人であれでもない、これでもないなんて言いながら、しばらく広いフロアを見て回る。

そうすると、通り掛かろうとした和小物店のあるものが目に留まった。

…そうだ

これから暑くなってくるし、良いかもしれない。

「櫻井さん」

思わず、私の前を行く彼を呼び止める

「…扇子は、どうでしょう？」

そう言って彼を手招きして、品物を見せる

「このデザイン、素敵だなと思って」

私が手に取ったのは2つセットのもので、

ベースの黒にダリアの花が品良く描かれており、2つの扇子のダリアの花の色が色違いになっている。

「このダリアの花言葉は “感謝” ですし、ご両親への贈り物なら良いかも知れないですね」

和小物が好きな私は、素敵な扇子に勝手にテンションが上がってしまって

反応のない櫻井さんに気付いてハッとする

「あっ、すみません、私ったら『Aさんってさ』」

焦って喋る私を、彼が遮る

.

『なんでそんなに良い女なの？』

…へ？

『いや、うん。良いね』

『決めた、これにするわ』

そう言って櫻井さんは私に微笑みかけると

『買って来るから、待ってて』と言って

私の手からその扇子を受け取ってレジに向かった。

.

『Aさんのお陰で良いプレゼントが買えたよ、ありがとう』

贈り物の配送手続きを終えた櫻井さんが、こちらに戻って来る

「いえ…一緒に選べて、楽しかったです」

私がそう言うと、彼は優しく私を見つめる

.

『この後なんだけど』

百貨店を出て、中央通りを歩きながら彼が言う

『俺の友達がやってる店を予約してあるから、そこで良いかな？』

そう私に問い掛ける彼に頷くと、私たちはそばに停まっていたタクシーに乗り込んだ。