やさしい食卓二。【SS】 (ページ29)

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五十九。ルール違反ページ29

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…ルール違反？

今のその言葉の意味が分からなくて、私も立ち止まって彼を振り返り、真っ直ぐに見つめ返す

『…俺、Aさんを困らせたくないから』

『俺の気持ち押し付けて、君を困らせたくはない』

…え？

『自分のこの気持ちに気付いてしまった以上』

『お客さんとしての立場でAさんに会いに行くのは、ルール違反だと思うんだ』

『だから今日は、そこで待ってたんだけど』

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彼は、何を言っているんだろう？

『今日は一つ、Aさんにお願い』

そう言葉を続ける彼は、真っ直ぐ私に向き直る

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『俺と、デートしてくれませんか？』

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…え？

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『Aさんの休みの日に、ちゃんと、2人でデートしたい』

『全ては、それからだと思ってる』

どうしよう

彼の眼差しが力強くて、胸が痛い

私が何も言葉を返せずに立ち尽くしていると

彼は何か思い出した様に、鞄から何かを取り出した。

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『これ、京都のお土産』

そう言って、鞄から取り出した綺麗な和箱を私に手渡す

『帰ったら、開けてみて』

呆然としたままで

尚もまだ言葉を発せないでいる私に、眉を下げて力無く笑った彼は

“あっ” と言って、胸ポケットから名刺を取り出し私に差し出した。

『よく考えたら、連絡先知らなかったらデートの待ち合わせ、出来ないよね』

何か、言わなきゃ

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『…家、着いたね』

何となく歩みを進めていた私たちは、私のマンションの前まで到着した

早く、何か言わなきゃ

私、ずっと黙ったままで

「あ、あの…ありがとうございます」

ようやく発する事が出来たのは、そのたったの一言だった

『…ん。部屋、入ったら電話して？』

『ここで、待ってるから』

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そう言う彼を置いて

私は、マンションの中へ、入って行く。