やさしい食卓二。【SS】 (ページ15)

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四十五。仕事じゃないからページ15

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『それにしても、こんな風にAさんとお酒飲むのってなんか新鮮だな』

そう言って、手に持ったウイスキーのロックをカランッと鳴らし、氷を指で触れる。

確かに…こんなシチュエーション

もう二度とないかも知れない

「…そうですね」

こんなプライベートな時間に、なんだか手持ち無沙汰というか

何を話せば良いのかイマイチ分からなくて黙っていると、それを察したかの様に櫻井さんが口を開いた。

『今日は、仕事じゃないから』

…え？

『俺の話じゃなくて。Aさんの話、もっと聞かせて？』

たじろぐ私に構う事なく、彼は続ける

『Aさんの事、もっと知りたい』

彼からの思わぬ言葉と、その真っ直ぐな瞳に、少し狼狽える

『生田の嫁さん…あ、いや、Aさんの親友の涼子さん。彼女のご両親は、素敵だね。ラストは俺も感動した』

先ほどの披露宴を振り返る様に、彼はそう言った。

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涼子のご両親には、私も学生時代にとてもお世話になった。

高校在学中におばあちゃんが亡くなってから、一人きりとなった私を心配した涼子が

しょっちゅう自宅に招待してくれて、よく涼子のお母様に夕食を振舞って頂いた。

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『彼女の手紙の朗読中、何気無くAさんの方を見てたらさ』

『Aさん、すっげー涙、流してたから』

『最初は “ああ、感動してるんだな”って、そう思ったんだけど』

…ああ、そうだった

『Aさんの目から止まる事無く流れ出て来る大粒の涙を見てたらさ、なんかそれだけじゃないような気がしちゃって』

『余計なお世話かも知れないけど』

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そう、この人はあまりに賢すぎる人で

『Aさんが背負ってる何か重い荷物を、少しでも軽くしてあげられたら』

『ちょっとは、この間のお礼になるかなって、思ってさ…』

そしてあまりにも、勘が良い人だった_____

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“今日は、仕事じゃないから”

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『今日は、俺、お客さんじゃないよ』

この人に、私の弱さを

見せても良いのだろうか？______