三十五。残り香【翔】 ページ5
.
ドスンッ________
「はー……」
マンションの自分の部屋に着いて、荒々しく脱いだジャケットをソファーへ投げ出し
早々にベッドに仰向けになる。
.
今日は、飲み過ぎた。
そう、きっとその所為だ。
.
右手を額に当てて、瞼を閉じる
.
“今晩は、ゆっくり休んで下さいね”
耳元に囁かれた彼女の言葉がフラッシュバックする。
.
“櫻井さん、ジャケットの襟が…”
割烹着を脱いだ、淡い桜色の着物姿の彼女が
俺の襟を正そうと近付く
今までになかった距離感に
長い睫毛に縁取られた大きくてキレイな瞳と
絹のように美しい白い肌が、眩しく映って…
.
“あのまま櫻井さんを、何も出さずに帰してはいけないって”
“元気の無い顔をしていた櫻井さんを、笑顔に出来るように。
そう思いを込めて、この蛤のお吸い物を拵えました”
…マズイ
そう思った時には
もう既に、彼女を抱き締めてしまっていた______
.
初めて触れることを許された彼女の身体は、
すんなりと俺の腕の中に収まって
その華奢な身体に
立派な料理人として生きる彼女も、一人の女性である、ということを感じられた。
.
抱き締めている時に感じた、ほのかに香った彼女の甘い香りが
彼女から離れた今も、俺を捉えて離さない
.
“こんなに素敵な男性は、なかなか居ないと思うから”
“だから、きっと大丈夫ですよ”
.
女にこんな姿を見せられたことなんて、今までにあっただろうか？
何故だろう、まだ会って間もないのに
彼女の前では裸の心を見せられる
.
“東京って、寂しい人で溢れかえっていると思うんです”
.
彼女はこれまで、どんな道を歩んで来たんだろう
彼女を知りたい、彼女に近付きたい
気付けばそんな考えが俺の頭の中を支配していて
.
考え過ぎた頭を振り切るように、ベッドの上で窓側に身体を倒すと
東京の夜景が視界一杯に広がった。
.
俺は、彼女を
一、女性として見ているということなのだろうか______
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 310人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ティファニー | 作成日時：2015年5月8日 16時
