やさしい食卓一。【SS】 (ページ30)

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三十。只者じゃ無いページ30

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『はー……すげー染みる』

お吸い物に口を付けて、嬉しそうな表情を見せる彼。

なんだろう

今日の彼は、いつもの隙の無い完璧な櫻井さんとは違う顔をしてる

そんな気がした。

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『今日ね、朝イチでここ一番の大事なプロジェクト会議があって』

伏し目がちにそう口を開く

『そこで重役たちの前で俺のプレゼンをしたの』

『ま、無事成功してね』

『今夜は真っ直ぐここに来るつもりだったんだけど』

『今朝の会議が上手くいったお陰で、まんまと上司に捕まっちゃって』

『日本橋の一端の老舗料亭に連れてかれたんだけど、なんだろ？』

『やっぱり作り手の姿や過程が見れた方が、その心意気が感じられるし』

『より、美味しく感じるね』

なんだか…いつもの自信溢れる表情とは違って、どこか余裕の無いように見受けられた。

いったい何が、この人をこんな表情にさせているのだろうか？

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「櫻井さん」

彼の言葉が途切れたところで私がそう声を掛けると、彼が私を見上げる。

「何かが…あなたを思い悩ませている。今日は、そんな顔をされているように思います」

櫻井さんは、私の言葉に目を丸くした。

彼も私も、目を逸らさない

“また出直すね”

「だから、さっきは」

「あのまま櫻井さんを、何も出さずに帰してはいけない気がしたんです」

“良いの？……ありがとう”

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変わらず私を真っ直ぐ見つめる彼に気付き、ハッと我に返った

「…すみません、私ったら、一丁前に…失礼いたしま『いや』」

慌てた私の言葉の途中に、櫻井さんが眉を下げて笑い、声を挟む

『やっぱりAさん、只者じゃ無いな』

そう言った彼は、さっきまでとは違う

少し力の抜けた表情になった。

『…そうだな。ちょっと一つ、考え事があってね』

心の奥にしまっている思いを零すように、だけど慎重に言葉を選びながら、話し始める______