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次のデカい取引先は中国。フロントに徹している在日の構成員は今いない。辞書、最悪翻訳サイトを利用するしかない、か。
そこで軽いノックの音が聞こえる。Aだ。
「三途とは終わったのか」
「ん、昨日マイキーからチャイマフィの案件来てるって聞いて。ココ平気?」
一応マンダリンはネイティブよ。放つAについ抱き付きたくなった俺も、やはり大概疲れている。
「……平気じゃねー。つーか、A何ヶ国語話せるんだ」
「日本語と英語、ネシア語、隣のマレー語にマンダリン。あと独学だけれど、スペイン語とイタリア語にフラ語。ブラジルに滞在していた事があるから、ポルトガル語も話すわ……9かしら。ロシア語は勉強中」
頼もし過ぎる。その後Aはテキストでのやり取りに留まらず、先方との北京語通訳をしてくれた。
「助かったわ、さんきゅ。忙しい中悪かったな。……昼、三途と鶴蝶が珍しく歪み合ってさ」
「え?うん」
「……Aはイザナを"消化"してるのか?」
「"死んだ奴の事は忘れろ"、イザナ当人が昔鶴に言ったのよ」
「……ああ」
「簡単な事じゃない。私の中には嫌でもイザナが残ってる、でもね」
私は今も昔も囚われない。Aは頬を緩め、俺と大きな目を合わせた。
「時には、問いが複雑になっているだけで、答えが存外シンプルなものだったりするでしょう」
「……そうだな」
「ハルたちを拾った、鶴と再会した、愉快な皆に出会えた、それが全て。イザナは不貞腐れそうだけど、知った事じゃないわ。寧ろザマーミロね、勝手に目を離すから」
カラッと笑うAに、改めて彼女の強さ、逞しさを垣間見る。
「……今夜、飲みに行かないか」
「I'd love to.(喜んで)睡眠時間は確保して」
イヌピー……赤音さん。俺も漸く前を向けそうだよ。
まぁ、癖の強いライバルは多いけど。
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作者名:カーター千之助 | 作成日時:2024年3月1日 0時