31. 変わらない君と *kkch/ snz ページ33
Aが偽造の戸籍を作った。偽造、と言っても正規で使える代物である。
曰く「本籍地を横浜にして、法務省のデータベースに潜り込んで諸々書き加えた」のだとか。
戸籍の売買自体は梵天の稼業の一環、主に取引先のチャイニーズマフィアの専門でもあるが、一から作成する事は想定する限り闇弁を使っても不可能な筈だった。
それを最もあっさり遂行したAに、俺もボスも、他幹部も暫くフリーズしたのは一昨日の話。
生死さえわからなかった俺とイザナの宝物は、孤独と引き換えにとんでもない力を手に入れていたらしい。
「で、何で苗字が"佐野"なんだ」
「マイキーがお願い、って。何でも良かったし、必要時"ボスの妹"も名乗れるから良いんだけれど」
ボスの意図はそうじゃないと思うぞ。幹部室に居合わせた三途と九井、モッチーと顔を見合わせる。
我らがボスは、Aの事となると存外子どもっぽい。
幼馴染みで天竺に入るまでのボスを良く知る三途に言わせれば「東卍の時の顔をする」そうで、今回もつまり「夫婦みてーじゃん」等言っちゃ悪いがくだらない事を閃いたに違いない。
「ンで、何に使うんだよ。お前の技量がありゃどんな契約も不便ねーだろ」
三途が問うと「翻訳家として表で堂々出来るのは便利よ」とにっこり笑うAは「まず家を借りるわ」と続けた。
「家？ここじゃ不便か？」
「そうじゃないけれど。ハルや灰谷兄弟、ココもモッチーもセーフハウス持ってるじゃない。私だって日本に一件くらい欲しい」
「あー。うちも不動産扱ってっけど、ほとんどクソ谷の担当だかンな。アイツらに特定されんなよ。九井への申告は義務だがよォ」
あと俺にも教えろ、と私欲まみれの三途を華麗にスルーしたAは「目星付けて、次のオフにでも内観して来ようっと」とルンルンである。
イザナを躱していた頃と何ら変わらない無邪気な表情、クイーンと呼ばれても反社になってもAはAのままで、俺も自然に顔を綻ばせてしまうのだ。三途に「キメェ」と罵られる程度には。
「警視庁のリストには普通免許も加えたし、車も買うの」
「Aあっちで乗ってたもんな」
「車種は決めてるのか？」
今度は車好きのモッチーが前のめりである。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カーター千之助 | 作成日時：2024年3月1日 0時
