14. 君だったんだね *mnjr ページ14
部下にたい焼きを買いに行かせ、個装された大量のそれらをテーブルにどさ、と置く。
「A知ってる?あんこ以外のたい焼きもあんの。俺はあんこ一択だけど」
「えっと、カスタード?」
「他にも。抹茶とかチョコとか、ほら。お好み焼き味なんてーのもある」
俺がそう言って見せると、味が想像出来ない、と整った顔を顰めるAに笑った。
そんな俺に三途他幹部たちが目を見開いてやがるが放置だ。俺自身、らしくもねー穏やかな気持ちに戸惑ってんだから。
Aは「久しぶりだし、まずはね」とあんこと書かれた袋を手に取った。
「Aの話、聞かせて」
「私の?退屈よ」
「別に良い。Aは俺らの情報持ってるのに、俺まだAの事全然知んねーし。生まれはどこ?」
「3歳から横浜の施設だもの、覚えていないわ」
「そっか。当時のイザナはどんなだった?」
「彼は私より一年先に入所してたの。他の子より大人しかったけど、まだ幼児の私と良く遊んでくれた」
「……Aが3歳ならイザナは8歳か。妹がちょうど3歳の時に離れてるから、重ねてたのかもな」
「それは違うわ」
ふふ、と品良く笑いながらも言い切ったAに今度は俺が目を瞬かせる。
「知ってる、エマちゃんでしょう」
「えっ、あいつエマの話してたの?」
「当初はね。"迎えに行くって嘘吐いた、きっと今幸せだから良いんだ"って。私も子どもなりに拗ねた事があったの、"私はエマちゃんじゃない"って」
「……うん」
「"エマはニィ、ニィって俺に付き纏うけど、生意気なAは逃げるだろ。似ても似つかない"って。自分も猫被ってた癖に、失礼じゃない?」
「っ、はは。そっか、確かに見た目も似てねーしな。それからは?」
「私にどんどんお友達が増えるのが気に入らなかったのか、一人の隙を見つけると追い回されて、転ぶと笑いながら"せんせー、またコイツこけたー"って。それは私が6歳で鶴が入って来てからも続いてたわよ、ね?」
「あ、ああ……。でもその時にはAも足が速かったから、イザナは悔しがってたぞ。もう大人しくもなかったか」
鶴蝶が話に加わってくる。そうだ、ここも幼馴染みだった。Aと鶴蝶に話をしろとは言ったが、今Aは俺と向き合ってたのに……。
「マイキー」と再び口を開いたAに意識を戻す。
「それから、シンイチローくんが遊びに来るようになったんだ」
「っ、」
一瞬、息を呑んだ俺の手を、Aが優しく包んだ。
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作者名:カーター千之助 | 作成日時:2024年3月1日 0時