ノット・フェア４ (ページ4)

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母と婚約者と小さい彼。ページ4

軟禁中、在宅で仕事に没頭していたAさんに僕ばかり寂しいなど言っておられず、トレーニングと調整に精を出した。そして解放されたらしい今日。

「翔平くん！ミヨさんも、よろしくお願いします」

　母の故郷である横浜へ出向く事になった。Aさんにとっても、六本木に次いで馴染みのある街らしいが、僕は野球関連を除いて初めての訪れる地である。母は前日からそれはもう楽しみにしていた。主にAさんと出掛ける事に関してだろうが、僕も右に同じ。

「会いたかった、Aさん」

「デートのお邪魔してすみませんね。Aさん、こちらこそよろしくお願いします」

「私も会いたかったよ。ミヨさん、邪魔だなんてとんでもない！コートとってもお似合いです」

　またも初見の部下さんが運転してくれる……あ、「こないだの部下さん、大丈夫だった？」「ん、どれ」「蘭くんの的になった人」「あはは、言い方。大丈夫、元気に仕事復帰してる」慣れっこだよ、と。タフというか何というか……軽く事情を知らせていた母と目を見合わせる。

「誰かの下に付くって一定の忠誠心が必要じゃない？特に不良なんて、背負うものも信じるものも自分で決める訳だし。蘭や竜胆、当然私の性分も良くわかってるから。ね？」

「はい。でも自分はAさんについて来ただけでNeoAshの社員でもないので、蘭さんたちの考えまではわかりませんが」

「……運転手さんは普段何を？」

「東洋陶器の職人です、Aさんに親方を紹介されて」

「へぇ、ご立派！」

「守は器用だもん。元総長のくせに」

「中学生のAさん一人に潰された滅茶苦茶ショボいチーム、「取り消せ」……」

「過去のお前と、お前の為に戦った仲間を否定するな」

「……すみません。でもAさんに負けて性根鍛えられたお陰で、皆今カタギで生きてます」

　はは、と頭を掻く、明らかにAさんより年輩の運転手さん。Aさんは一瞬こちらまで身震いしそうな怒気を発した癖に、今や耳を赤くして「ふんっ」と窓の外を向いている。クス、と笑った母が僕に「Aさん照れてるのかしら」と耳打ちしたので、大きく頷いておいた。結句、僕の婚約者は可愛い。

「あら〜赤レンガ倉庫も変わったわね」

　到着し、三人ともマスクをする。だが一箇所が騒ぎ出すと当然人集りは出来てしまう訳で、僕とAさんだけならまだしも、母は慣れていない。途端、だっ、とAさんがそちらの方に飛んだ。いや、凄い飛距離。