ノット・フェア４ (ページ1)

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荒ぶる長弟。ページ1

夜のトレーニングを終え、Aさんが早速ミキサーで作ってくれたアップルジンジャーのプロテインスムージーを飲み、二人で丸の内までイルミネーションを観に来た。一平さん夫婦が絶賛していたから。こんなに混雑しているとは聞いていなかったけど。

　Aさんはずっと、僕にも耳馴染みのあるクリスマスソングを歌っていて「誰だっけ、それ」「マライア！」ロマンチックな夜景もそこそこに、楽しげなAさんの赤く染まった頬を撫でた。街に溢れるカップル、声を掛けて来るギャラリーにも「すみません」と断りを入れる。だって僕たちは中々一緒にクリスマスを過ごせない。年明けにAさんが地元まで挨拶を兼ね追って来てはくれるものの、来月からはキャンプでトレーニング三昧。それが僕のしたい事、すべき事なので本望ではあるが。

「翔平くん、夢は？」

「高校時代はドラ1、8球団。今は……世界一になる事。その隣には勿論Aさんがいて」

「うん」

「人生が夢を作るんじゃない、夢が人生を創る。そう信じてひたすら野球と向き合って来た……Aさんは？」

「蘭と竜胆がカタギで堂々と生きて、私は少しでも多くの子どもたちを抱き締めて、最終的に恵まれない子どもを減らせたらって。でも、」

　翔平くんとの将来設計も楽しみ。軽い変装のマスクを下げて、くふくふと笑う彼女が愛おしい。流石に目立ち過ぎたようで、中にはメディア関係者らしき人たちもいる。

「帰ろっか」

　Aさんの手を引き、煩わしい視線を掻き分けながらタクシーを拾う為に大通りまで出る。

　いざ帰宅しソファーで並んで寛いでいたその時、Aさんがスマホを確認しては目の色を変えた。いや、いつも通り綺麗な紫なのだけれど、何というか。

「……どうかした？」

　僕が尋ねると、息を吐いたAさんはスマホの画面をずいと差し出した。どうやら竜胆くんからのメッセージで、"姉ちゃんたすけて"と。

「翔平くん、せっかくプロポーズしてくれたのにごめんなさい。今からでも婚約破棄してくれて構わないよ」

「えっ、何で……絶対嫌。生半可な気持ちで申し込んだ訳じゃない」

　だから、そんな事言わないで。僕は咄嗟にAさんを抱き締めた。

「……ついて来てくれる？」

「勿論」

「"灰谷"を見て。無理だと思ったら、突き放して」