一目惚れなんてあり得ない。 ページ7
デイゲーム後、苦手な会食に参加する事になった。ホームラン打てたけど試合には負けたし、モチベーションが上がらないままスーツに着替えた僕はマネージャーと一平さんと会場に向かった。
案の定、ここぞとばかりに群がるーー主に女性陣に引き攣った笑みで挨拶に応じる。
「もう無理、何あの香水くせーババア。気圧下がる」
「お世話になってる方々にそんな顔しないの！ほら、このカナッペ美味しいよ？」
僕たち以外に日本人がいたのか。視線を向けるとシルバーヘアの短髪にバーガンディーのスーツ姿の男性と、遠目にも綺麗な黒髪を束ねシンプルな黒いドレスを纏った長身の女性。一平さんも注視していたのか「モデルさんかな」と小声で溢す。
中年男性に声を掛けられ振り向いた女性は和かに手を差し出した。このような場では女性から手を差し出すのが挨拶のマナー、正しくは男性側が待つ。レディファーストの文化故だろう。
僕は彼女の面持ちに既視感があった。
「一平さん、あの女の人……」
「うん、多分そうだね。あちらもクライアントだろうけど後で行こうか」
アメジストのような紫色の瞳は珍しく、良く映える。隣の男性のそれも近しい色だが、女性の大きな垂れ目と高い鼻筋は僕の友人二人と瓜二つだった。
「何て言ってるの？」
「連れの男の子が理事、英語が得意ではないので統括の私が代わりの挨拶失礼します、って感じかな」
なるほど。ニューヨークで出会ってから主に竜胆くんと親しくさせて貰っていて去年のオフシーズンには日本で彼らの自宅も訪れたが、お姉さんには未だ会った事がなかった。話にはいつも上るのに写真は見せてくれなかったし。でも、僕はもう確信していた。
「あちらさんも気付いたみたいだよ」
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作者名：カーター千之助 | 作成日時：2024年1月1日 0時
