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「夢みたいな話だけれど、うちは他のNPOのような綺麗な看板を掲げてなければ、難民の写真を使った広告も打ってないの。その費用をリアルに回した方が実質子どもたちに多く与えられるし、手一杯。理事のイザナの過去について悪く言われる事も多い、だから私は直接講演で為人を見て知って貰ってるんだ」
「……うん」
「翔平くんのイメージダウンする事だけはないように、慎重にお話進めてくれたら有り難い。支援先を決めた明確な理由がないと翔平くんが不本意に問い詰められる事もあるかもしれないし。でもただの灰谷Aの感情としては、泣きたいほど嬉しいよ」
ありがとう。Aさんは涙を堪えるよう形良い眉間にきゅ、と力を入れた。
大丈夫、明確な理由ならある。トップの人間がこれだけ現場に出向く大組織を他に知らない。その理由も、背景も、信念も。言い方が悪いが、御涙頂戴の団体なんかよりずっと堅実だ。
手が長くて良かった、Aさんの小さな頭に手を伸ばし優しくバウンドする。
ぱふぱふ。ぱふぱふ。
「楽しみにしてて。未来ある子どもたちに野球の楽しさを知って貰えると僕も嬉しい」
「……うん。皆、何か夢中になれるものが見つかれば良いなぁ」
「夢中にさせてみせるよ、野球にね。Aさんもやる?僕とキャッチボール」
「……牧とデスターシャする」
「おい」
君はズルいほどに魅惑的な女性だ。
「ご馳走様でーす!大谷マネー動きました」
「ぶっ、美味かったっしょ?」
「うん!とっても」
「またデートしてくれる?」
「全くデートのつもりじゃなかったよ」
「めちゃくちゃはっきり言うじゃん……。じゃあ、次はデートしてくれる?」
にっこり笑って「うん!」と頷いてくれたAさんを抱き締めたい衝動にかられながら帰路に着く。
「また連絡する。試合も観に来てよ、友達呼んで良いから」
「私こっちに友達一人しかいないんだけど。大谷翔平っていう背高めの日本人」
「あー、その人多分エンゼルスの試合日予定あるんじゃないかな」
「タイミング悪いなー大谷翔平。あ!マイキー辺り呼んだら来るかも。ちゃんとチケット買って行くよ」
「招待させて下さいな。佐野万次郎選手が来たらまた騒がれそうだけど。超有名人じゃん」
「たい焼きと旗付きのお子様ランチが大好きな大っきい子どもだから大丈夫」
改めてご馳走様でした!と外に出ては、車が発進して僕が見えなくなるまで手を振ってくれた。
「……好きだなぁ」
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作者名:カーター千之助 | 作成日時:2024年1月1日 0時