二人きり。 ページ34
約束の日、Aさんに着いたと知らせれば間も無く助手席の窓をノックされた。
「後ろの方が良い?」
「大丈夫です。お疲れ様です」
失礼します、と乗り込んで来たAさんからはふわり優しい香り。
黒いホルターネックのタイトな膝丈ワンピース、ピシッと結われたストレートのポニーテール。甘い顔立ちとのギャップがAさんの人柄を表しているようだ。無音の中、ふんふんと鼻歌を歌っている。
「楽しみですか?」
「当然!今なら100メートル3秒で走れそう」
早過ぎ、思わず吹き出す。余所見できないけど、今頃僕の好きな紫はキラキラ輝いているんだろうな。
「ネパールでの暴動のニュース、一平さんに見せて貰ったんですけど……テンジクの子どもとか関係者さんとか大丈夫でしたか?」
「ああ。ご心配ありがとう、事務局に破損はあったんだけれど施設も子どもたちも職員も無事。ただ現地職員が報復に行きそうな勢いで怒ってて、そっち宥める方が大変」
「皆無事なら良かった、確かに海外って野球の乱闘もですけど報復しなきゃ気が済まないところありますよね」
「うん。加えてうちは社会に受け皿のない元非行少年を再犯防止兼ねて積極的に雇用しているから、血の気がねー!」
「はは、そうなんですね。正直僕竜胆くんと知り合うまで不良とか無縁だったんですけど……Aさんもやられたらやり返します?」
「守るものの為なら。ただ今の優先は子どもたちでしょう、昔みたいに怒りに任せて〜とかはないな。今更だけど敬語いらないよ」
「えっ、えー……うん?わかった。僕も大谷さんじゃなくて翔平で良いです……良いよ」
「あはは!OK、翔平くん」
一歩関係が前進したところで店に到着した。女性をエスコートした事などほぼない僕に先手を打ち、Aさんは必要ないと断る。ふんわりしているようで、結構はっきりしてるよな。
駐車場から店まで初めて二人で歩く数十歩。決して高過ぎないヒールを含めて180センチ近くかな、なんて思いながら辿り着けば「やっぱり大きいね」と僅かに見上げられドキ、とした。僕は中学生か?
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作者名:カーター千之助 | 作成日時:2024年1月1日 0時